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連載 ART to GO 「ムンク展」

西洋絵画の巨匠、エドヴァルド・ムンクの大回顧展が東京・上野の東京都美術館で開催されています。世界的に有名な《叫び》を含む100点もの作品が展示される大回顧展の見どころと、謎の多い画家の人物や作品についてご紹介します。
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エドヴァルド・ムンク 《叫び》
エドヴァルド・ムンク 《叫び》 1910年? オスロ市立ムンク美術館所蔵 © Munchmuseet 今回の展覧会で初来日となる作品。画家の故郷であるノルウェーの首都オスロにて、夕焼けとフィヨルドの風景が描かれている。

激しい感情を表現し続けた孤高の画家

両手で耳をふさぎ、揺らぐように道にたたずむ人物。心をかき乱すような色使い。見る人の心に鮮烈な印象を残す作品「叫び」は、ムンクの代表作としてあまりにも有名です。 世界的にその名を知られるムンクの生涯は、波乱に満ちたものでした。 ムンクは、5歳の頃に最愛の母を、14歳で姉のソフィエを、その後パリ留学中の26歳の頃に父を亡くします。その後も、交際女性と口論の際にピストルの暴発で左手中指の一部を喪失。また、長い期間、アルコール依存症や神経衰弱症に悩まされていました。
不遇な人生を歩まざるを得なかったからこそ、ムンクは常に「死」や「不安」、「絶望」、「孤独」といった内面にひそむ負の感情を見つめ続け、ネガティブな心象風景を絵画へと昇華していきます。
エドヴァルド・ムンク 《自画像》
エドヴァルド・ムンク 《自画像》 1882年 オスロ市立ムンク美術館所蔵 © Munchmuseet ムンクは自画像を数多く残しているが、こちらは若かりし頃のムンク。神経質そうな視線が印象的な美青年であったことが伺える。
エドヴァルド・ムンク 《病める子 Ⅰ》
エドヴァルド・ムンク 《病める子 Ⅰ》 1896年 オスロ市立ムンク美術館所蔵 © Munchmuseet 母や姉の死をモチーフにしたシリーズ作品「病める子」の中の一枚。「死」はムンク作品の大きなテーマだった。
エドヴァルド・ムンク 《生命のダンス》
エドヴァルド・ムンク 《生命のダンス》 1925年 オスロ市立ムンク美術館所蔵 © Munchmuseet 「叫び」を含む一連のシリーズ〈生命のフリーズ〉の最後の作品。白、赤、黒のドレスを身につけた女性は「官能」や「死」などを表現しており、愛の始まりから終わりまでを表現したといわれている。

名画に込められた魂の叫び

「叫び」は、ほぼ同じ構図ながら素材や技法が異なる4点(版画を含めると5点)が描かれていることをご存知でしょうか。その中の1点が今回初来日を果たしました。4点のうち、唯一、目玉がはっきりとは描かれていない作品としても知られています。
一緒に歩いていた友人が先に行ってしまい、一人でたたずんでいたムンクは血のように染まる空がオスロの街を覆い尽くす光景を前にして、「自然を貫く果てしない叫び」を聞いたといいます。この体験を描いたのが本作品であり、絵の中の人物は、「叫び」に耳をふさいでいると考えられています。
実は、ムンクは「叫び」と同じ風景をバックにした作品を複数残しています。その一つが今回来日している作品「絶望」。両手で耳をふさぐ人物とは対照的に、目を伏せて静かにたたずむ男性が描かれています。「絶望」は、「叫び」を耳にして立ち尽くす自分自身の姿を、そして「叫び」は、そのときの内面を描いたものなのかもしれません。こうした視点でムンクの作品を見ると、新たな発見があるのではないでしょうか。
エドヴァルド・ムンク 《絶望》
エドヴァルド・ムンク 《絶望》 1893-94年 オスロ市立ムンク美術館所蔵 © Munchmuseet 〈生命のフリーズ〉シリーズの一つ。左側に、歩き続けるハットの男たちも描かれている。「叫び」の人物とは一転、暗く陰鬱な雰囲気。
今回の展覧会は、オスロ市立ムンク美術館が誇る世界最大のコレクションを中心に、約100点を堪能できる大回顧展です。すべてがムンク作品という点も贅沢ですが、60年にわたるムンクの画業を、主題ごとにたどることができるのは非常に魅力的です。
内面の狂おしい感情を見つめ続け、鮮烈に描き出した画家、ムンク。作品を通して彼の生涯を知ることで、ムンクの心象風景―「魂の叫び」を追体験することができるかもしれません。
「ムンク展―共鳴する魂の叫び」
会期:開催中~2019年1月20日
会場:東京都美術館 東京都台東区上野公園8-36
開館時間:9:30〜17:30(金曜日は20:00まで)
前売券:1,400円、大学生・専門学校生 1,100円、高校生 600円、65歳以上 800円
当日券:1,600円、大学生・専門学校生 1,300円、高校生 800円、65歳以上 1,000円
※中学生以下は無料
※高校生は12月無料
お問い合わせ先:TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
https://munch2018.jp
Text by EBISAWA Miyuki
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