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連載 CREATOR'S EYE
第4回「仕事で行き詰まった時に観る映画」

クリエイティブな仕事をしている三人の方に、あるテーマにそってモノやコトを推薦いただく本企画。4回目のテーマは「仕事で行き詰まった時に観る映画」です。巨匠が描く安定のコメディに、知る人ぞ知るミニシアター系監督の名作、邦画の金字塔の3作品をご紹介します。

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平熱適温ドタバタコメディ

『おいしい生活』ウディ・アレン

ラッパー・環ROY

ウディ・アレン扮する自称・天才犯罪者が、奥さんとともに銀行強盗を企てるというコメディ劇です。まず、ウディ・アレンの役どころが元ギャングなのですが、まったくギャングに見えない(笑)。どこもかしこも馬鹿馬鹿しくて、筋も明快、そしてユーモラスで可愛いらしい。頭を空っぽにして何も考えないで観られる映画です。
泣かせようとしたり驚かせようとしたりという演出があまりないため、エモーショナルな映画ではありません。登場人物はみんな真剣だけど、少しずつズレています。そしてたんたんとズレ続け、ズレが臨界点に達すると突拍子もない方向に展開し、笑いを誘います。それが平熱で繰り返されるため「めちゃくちゃ笑わせるぞ!」って雰囲気でもなく、肩の力が抜けた独特の心地よいリズムでリラックスするんです。
『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)や『さよならハリウッド』(2002年)など、ウディ・アレン監督の好きな作品はいくつもあるのですが、そのなかでも一番軽やかな映画かも知れません。爆笑はしないけれど、クスッとした笑いがちりばめられていて、ずっとニヤニヤして過ごせる。すごくフィットする温度感で、観ていて疲れないんです。
行き詰まった時、僕はその問題から一旦距離を置くことが多いです。全く関係ないことをしたり、馬鹿馬鹿しい映画を観たり、漫画を読んだりして、頭の中をリセットすることが大事。仕事に限らず、ちょっと追い込まれている人が観ると、少しだけ心がほぐれる。男女問わず、誰もが楽しめる映画だと思います。
『おいしい生活』(2000年公開)
出演:ウディ・アレン, トレーシー・ウルマン, ヒュー・グラントほか
監督:ウディ・アレン
販売元:KADOKAWA
https://www.kadokawa-pictures.jp/official/oishii_seikatsu/video.shtml
環ROY(たまき・ろい)
1981年、宮城県生まれ。最新作『なぎ』を含む5枚のCDアルバムを発表し、様々な音楽祭へ出演。劇場や美術館などでのパフォーマンスも多数。最近は『ふしぎの国のバード』(角川書店)という漫画に感銘を受けました。
http://www.tamakiroy.com/
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