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連載 CREATOR'S EYE
第5回「また訪れたい日本の宿」

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懐かしい家に帰ってきたような宿

会津若松「いろりの宿 芦名」

哲学者・鞍田崇

東山温泉は会津若松の奥座敷と呼ばれていて、外からの宿泊客だけでなく、昔から地元の人たちに親しまれていました。いまも芸妓さんがいて、とても雅な場所です。はじめて訪れたのは3年前。会津漆器協同組合青年部から講演を依頼されたのがきっかけ。講演会は駅近くの都市型ホテルで開催されたのですが、主催者の方々が本来の若松の風情を味わってほしいと気を利かせてくださって、東山の「いろりの宿 芦名」に泊まらせてもらいました。女将さんはじめ、宿のみなさんのさりげない心遣いがもうツボで、そこから親交を深めています。
そういえば、こんなことがありました。去年、NHKの「私の好きな民藝」という番組の収録の際に、大雪で立ち往生してしまったんです。会津若松まではなんとかたどり着いたのですが、ロケ地の奥会津方面の鉄道は運休で。どうしようかと「芦名」に連絡をしたら、「ひとまずひとっ風呂浴びていったらどうですか」と言われて(笑)。それで「芦名」のお湯につかり、囲炉裏端でご飯をいただき、すっかりくつろがせてもらって、雪が落ち着いた頃に、奥会津まで車で送ってもらいました。そんなこともあって、余計に親しみが湧いたんです。
実は、僕の母方の祖母が瀬戸内で旅館(某都市銀行の保養所でもあり、家族は「寮」って言ってました)の女将をしていたんです。幼いころよくそこに預けられもして、僕の原風景にもなっています。「芦名」は、この祖母の旅館の雰囲気を思い出させてくれるんです。明らかに住み慣れた日常ではないのに、どこか日常であるような。旅の目的はひとそれぞれだろうけど、まるっきり非日常に浸るというよりは、別の日常を体感する楽しさっていうのもあるんじゃないでしょうか。「芦名」に感じる親しみはそういう感じ。また訪れたいどころか、いつでも帰りたい宿なんです。
いろりの宿 芦名
福島県会津若松市東山町湯本下原232-1
http://www.ashina.co.jp
鞍田崇(くらた・たかし)
1970年生まれ。哲学者。明治大学理工学部准教授。著作に『民藝のインティマシー』(明治大学出版会)、『生活工芸の時代』(新潮社)など。漆器なんて古めかしい。そう感じるひとは、ぜひ「ノダテマグ」を手に取ってほしい。ぜったいイメージ覆されます。
http://takashikurata.com
Text by HATTORI Madoka
Edit by HATTORI Madoka、OBAYASHI Shiho
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