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連載 CREATOR'S EYE
第6回「思い出の絵本」

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引き算の美学を描いた絵本

『よあけ』

弁護士・水野祐

子どもが生まれた時、millegraph(ミルグラフ)という出版社の富井雄太郎さんにいただいた絵本です。富井さんとは、東京藝術大学美術学部建築科のWEBサイトを制作した際に、Creative Commonsのライセンスをお手伝いさせていただいたのがきっかけ。ミルグラフは、主に建築やデザインの書籍を制作・販売していて、豊島美術館の写真集や美術家の内藤礼さんの作品集など、富井さんにしか作れない、素晴らしい本をたくさん出しています。その富井さんの奥様が絵本好きで、富井さんも30歳くらいのときに『よあけ』(福音館書店)を読んでびっくりしたみたいです。
暮らしているのか、旅しているのかわかりませんが、山の湖畔で過ごすおじいさんと孫に、静かな夜明けが訪れるという、ただそれだけのお話。子どもが好きな本と、大人が好きな本って違うじゃないですか。この本も大人の僕には良さがわかるけど、子どもにとって良い本かはわからないよな、と思っていたんですが、子どもにとっては少し地味かなというこの本を読んでくれとせがまれることも多くて、なかなか興味深いです。
僕自身、親に絵本を読んでもらっていたはずなんですけど、あまり覚えていないんです。なんとなく記憶にあるのは、『おおきなかぶ』や『だるまちゃんとてんぐちゃん』(ともに福音館書店)といった有名な絵本くらいです。それも子どもに読み聞かせるまで、すっかり忘れていました。中学生くらいになると、シャーロック・ホームズ、アガサ・クリスティなどの推理小説物や、宗田理の『僕らの七日間戦争』(ポプラ社)シリーズにはまりました。だから、絵本に対しての思い出はあまりなくて、影響を受けた絵本を聞かれても困ってしまうのが正直なところです。
『よあけ』には東洋的な哲学を感じます。「引き算」の絵本というか。一瞬を永遠に引き延ばしたり、静寂の中のわずかな機微を拾い上げるような描き方がされています。奥付に、唐の詩人・柳宗元の詩「漁翁」がモチーフになっていると記されていて納得しました。この静かな余韻は、絵本という表現やメディアにしかできないことなのかもしれません。ぜひ読んでみてください。
『よあけ』
ユリー・シュルヴィッツ作・画、瀬田貞二訳(福音館書店)
https://www.amazon.co.jp/dp/4834005488
水野祐(みずの・たすく)
弁護士(シティライツ法律事務所)。Arts and Law理事。Creative Commons Japan理事。IT・クリエイティブ・まちづくり分野に特化したリーガルサービスを提供している。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート社)など。絵本といえば、AC部による『イルカのイルカくん』(ロクリン社 )は、読む側のリテラシーが求められる逸品だと思います
Twitter:@TasukuMizuno 
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