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連載 CREATOR'S EYE
第6回「思い出の絵本」

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街が勇気をおしえてくれる

『ダンプえんちょうやっつけた』

哲学者・鞍田崇

たしか発売されてほどなく手にとったと記憶しています。小学2年生の頃でした。幼稚園時代、同じ二人組の著者の『おしいれのぼうけん』(童心社)が大好きで、繰り返し読んでいました。きっとその姿をみて、母親が見つけてくれたのだと思います。オモチャよりも本をたくさん買ってくれる家で、すでに絵本だけでも100冊以上ありましたが、『ダンプえんちょうやっつけた』(童心社)はすぐにいちばんお気に入りの一冊になりました。
小さな港町にある「わらしこ保育園」が舞台の物語です。当時の自分より幼い子どもたちをめぐるお話ですが、登場人物の中に「たかし」という男の子がいて、入り込みやすかったのかもしれません。ストーリーには「ごっこ遊び」の要素もあって、読みながらいつもワクワクしていました。目の前のなんでもない風景の向こう側に、別の世界が広がっている。そんな子どもの想像力を掻き立てるような物語なんです。何より主人公の「さくら」が超かわいくって。わがままで、意気地なし。口は達者なんだけど、何もできない。そんな彼女が……どうなったかは、ぜひ手にとって読んでみてください。子どもっていっぱいコンプレックスや不安をかかえているんですよね。歌が上手い子やかけっこが速い子に憧れながらも、自分にはできないと諦めてしまう。でも大丈夫。きっと、思いがけないチャンスがやってくるはず。そんなふうに読者の子どもたちにエールを送ってくれる絵本なんです。
この絵本を、ちょっと別の文脈で、最近よく講演なんかでも紹介するんです。きっかけは、昨年、あるトークで街の姿について考えることがあって。ふと『ダンプえんちょうやっつけた』の冒頭に描かれた、街の全景の絵を思い出したんです。住宅や商店がひしめきあう中に、保育園がポツンとたたずんでいる絵。「わらしこ保育園」は港近くの密集地にあるので、園の中には遊具もグランドもなくて、かわりに街全体で子どもたちを育てている感じなんですね。それをかなえているのが、たくさんの個人商店の存在。祖母の旅館に出入りの仕出し屋さんや酒屋さんなどいろんな職種の人たちにかわいがられた、自分の幼いころの記憶がよみがえりもして。思えば、僕が繰り返し訪ねる街は、いまもそういう雰囲気が残っているか、あるいは若い人たちがあらたにそういう街づくりにいそしんでたりする。小学生当時にそんなことは意識していなかったのですが、この絵本には、理想的な街のモデルが描かれてもいる気がして、大人になったいまもまた、改めて読み返しているんです。
『ダンプえんちょうやっつけた』
ふるたたるひ、たばたせいいち作(童心社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4494006076/
鞍田崇(くらた・たかし)
1970年生まれ。哲学者。明治大学理工学部准教授。著作に『民藝のインティマシー』(明治大学出版会)、『「生活工芸」の時代』(新潮社)など。僕が翻訳を手がけた絵本もあります。タイトルは、『たべることは つながること』(福音館書店)。食物連鎖を糸口に、自然と人間のかかわりをわかりやすく描いた絵本です。
http://takashikurata.com
Text by HATTORI Madoka
Edit by HATTORI Madoka、OBAYASHI Shiho
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