Beauty  

連載 〈美しさの秘密〉
第2回 歌手・坂本美雨「日常と非日常が作る、しなやかな美しさ」

伝統や風習に縛られず、様々な分野で活躍する人々にフォーカスし、彼らの「美しさ」の秘密を掘り下げる本企画。 第2回目に登場するのは、歌手の坂本美雨さん。長年続けている音楽活動や大切な家族との向き合い方から美しさのヒントを見つけました。
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音楽が繋げてくれる新たな縁

ー音楽を柱にラジオのパーソナリティや執筆など様々な活動をされていますが、その中で今一番楽しいことは何でしょうか?
この1〜2年は、全国各地にライブに行くことが一番楽しいです。昨年と今年の3月に岩手県盛岡市でライブを行なったのですが、招致してくださる地元のお店の方々とも仲良くなり、今も個人的な関係が続いています。
全国各地でのライブが楽しいと思い始めたのは、仲間のミュージシャンがライブ活動をしていたところに連れて行ってもらったことがきっかけでした。アルバムを発表して大きなコンサートホールをツアーで巡るのとは全く違った、有機的なライブの作り方というものを教わって。規模は大きくなくても一つ一つを大事に作っていく体験をしました。
ーライブに来るお客さんはどういう人たちが多いですか?
チケットを取り扱ってくださるお店のお客さんをはじめ、顔の見えるネットワークが中心です。印象としては、日々の暮らしを本当に大事にしているような人が多い気がします。自分と同じ子育て中のお母さんも来てくれますね。
ーそこには東京とは違った魅力があるのでしょうか?
東京でもそういうコミュニティはあると思いますが、地方のコミュニティで出会う人たちは特に、小さいものを丁寧に愛でている人が多いと感じました。これまであまり出会うことがなかった人たちでしたし、自分も憧れるようなところがあります。すごく丁寧にいいお店を作っている方々が全国にいて、こちらからやりたいとお声がけさせていただくこともあります。「自分のお店でライブをやってください」と声をかけてくださると、とてもうれしいです。
ー東京ではあまり出会えない方からも学ぶことが多そうですね。
一つのお店を丁寧にコツコツと作り上げて行くことや、自分の家を自分で作るということは、なかなかできないじゃないですか。最近はSNSがあるので、ライブを通して知り合った方々のInstagramの投稿を見ながら「こういう日常を送っているんだな」「こういう子育てがあるのか」と、学ぶことも多いです。ライブをしている時間だけではなくて、ライブの前後でも繋がりが広がっています。
ーそれはすごく現代的な音楽家のあり方のような気がします。坂本さんは20年以上音楽活動をされていますが、ご自身で音楽への向き合い方が変わってきたなと感じますか?
はい。より直接人に届けたいと思うし、私の音楽仲間でもそういう在り方になってきている人はとても多いと思います。例えば、音楽活動の相方のおおはた(雄一)くんは、全国流通に載せずに自分でCDを制作し自分で売っています。彼がライブでサイン会をやると、ライブ後、会場に来た全員の人がCDを購入したんじゃないかという時もあるんですよ。私も一緒に売り子をさせてもらうと、CDを手渡す時にお客さんが一言二言くださって「子どもがいるけど今は夫が見てくれています」「介護中なんですけど」とか、今日どういう努力を払ってここまで来てくれたかということが垣間見えるんです。お客さんからの声を直接聞いた時に、私たちの思いがきちんと伝わっていることを実感して「あぁ、本当によかった」と思います。
ーミュージシャンにとっては、きっと理想的な活動の仕方ですよね。
でも、バンドのメンバーやスタッフなど素晴らしい仕事をしてくれる仲間にはやっぱりお返ししたいし、イベントとしての収益をあげ、これからもきちんと還元していきたいです。見に来てくださるお客さんにも、音を調整してくれるPAエンジニアがいて、舞台を照らしてくれる照明さんがいて、と多くの人が携わってこの空間を作っていることを知ってもらう。その上で、ライブに参加して自分もその空間の一つになっていることがより実感できると、そこに対してお金を払う意義があると感じてもらえるのではないかな、と。歌い手だけではなく会場にいる全員にスポットライトが当たるようなライブ作りは、大きな規模のいわゆる音楽業界というところではあまり重要視されなかったことではないでしょうか。
私は小さい頃から、自分の父や母の現場で普段は注目されないいろんな人がとても大切な仕事をしていて、その協力があって親がステージに立っているということを見てきました。現場を初めて見た時から他の人たちの仕事もすごくかっこいいと思いましたし、みんな必要不可欠で賞賛されるべきだと。今も良い演奏ができたという以前に、それぞれの専門家と一緒にチームワークで良いものを作れたりするとすごくうれしいです。

緩やかな呼吸で作る自分のリズム

ー歌声ももちろんですが、東京FMのラジオ番組「ディアフレンズ」から聞こえてくる優しく包み込むような声が魅力的ですね。約8年間ラジオのパーソナリティを続けてきた中で、歌う以外の声の使い方で意識していることはありますか?
呼吸ですね。声は息に乗っているだけのものだから、そもそもの呼吸が浅かったり緊張で体がこわばっていたりすると、どうしてもそれが声に出てしまいます。例えば、プレゼンをする時に声が出づらくなったりすることがあると思いますが、自分の緊張や不安は、相手にも違和感としてつうつってしまうんです。ラジオでもそうですが、土台はしっかりしているんだけど、とにかく体を緩めてふわふわした状態で、上半身や表情も含めて力を抜いて話すようにしています。
ー確かに今もお話ししていると坂本さんのリズムに引き込まれて、緩やかなトーンになってきました。
ラジオだと特に、相手が私のリズムになってくれているなという時もあるし、私自身が相手に対して気持ちが開いているから、相手のリズムを受け取りやすくもなります。例えば、相手に強いものがあると、それに私が乗せられて声のトーンも変わっていくことがあるので、ラジオを聴いていただいている方は気がつくかもしれませんが、相手によって話し方というかリズムが全然違うと思います。
ー相手によってリズムが変わっていくというのは面白いですね。
話している時に「今、相手のリズムがうつっている、引っ張られているな」と気がつきますが、お話ししている時間が楽しければいいやと思っています(笑)。

自分と家族の向き合い方

ーこれまで愛猫・サバ美さんと過ごされていた生活から、ご結婚されてお子さんが生まれてここ数年で生活が変わったと思います。新たに加わった「家族」という関係にどのように向き合っていますか?
一人でいたときの時間をどういう風に過ごしていたんだろう(笑)。今思うと、一人で使える自由な時間があったらなんでもできた気がしますし、いくらでもスタジオに入っていいとか、どこへでも行けることは夢のようだなと感じます。今は相当努力をしないと新しいことができない。もっと時間を有効に使えばよかったし、無駄にしていたなと思うけど、やっぱり時間制限があることで集中できるという良いところもあります。家族や娘がいるというのが今の自分ですが、一人でツアーに行ったりすると「あ、こうだったな」という感じで一人のチャンネルに切り替わる時もあります。
ー切り替わる瞬間があるからこそ見えてくる気づきもあるのですね。
一人の時間と家族の時間の両方を、もっと良くして行かないといけないと思います。今も、家族と自分のバランスは探り探りな感じです。自分一人の世界に入っているとすごく心地良くて、そういう環境で音楽を産むのは幸せなことですが、ライブが終わったらそこから家族のもとに帰らなければいけない。ある日、自宅で娘の水筒を洗っていて、本当は旅に出て詩的なことを考えていたいのに私は今何をしているんだろう、と思ってしまった時があって。でも、それだと家族にも失礼だし、上手く融合していかないと自分が辛くなる。できるだけ、両方を丁寧にやっていきたい。家事や子育てといった生々しい生活の営みと、旅に出て詩的なことにふける時間。その両方がきっとこれから自分の音楽になると思うんです。
ー片方だけでは見つけられなかった世界が広がることは楽しみですね。
そうなんです。片方だけでは伝わらなかった人にも、もう片方の側面があるから伝わるということもあるんじゃないかなって。

情熱から生まれる柔らかく温かな美しさ

ーお仕事の延長線上にプライベートがある坂本さんのリフレッシュ方法は何でしょうか?
月に何回か、娘が寝た後に夫に娘を見てもらって一人で深夜に音楽スタジオへ行きます。曲を作るといった課題がある時もあれば、ただピアノを触りたいなという時もあるし、大きい声で歌いたいなという時もあります(笑)。
ーリフレッシュといっても、音楽と離れるわけではなくて音楽に寄って行くんですね。
私にとって音楽は本当に絶対的な守ってくれる場所なんです。だから、音楽によるストレスを感じることはないですね。あとは、友人が営むカフェに行って店主とだらだらしゃべったりもします。あとは、当たり前にそこにいてくれる愛猫・サバ美の存在は本当に偉大です。いつもは、わざわざ時間を取ってサバ美と過ごそうということがあまりないんですけど、この春は少しスローに過ごしていたので、自宅で原稿を書いているとすぐに膝に乗ってきたり、一緒に過ごせることにサバ美も喜んでいてとても穏やかな時間を過ごしていました。
ー生活が変化したことで変わってきた部分もあると思いますが、美しくあるために日々どんなケアをしていますか?
昔は色々な種類の化粧品を試していたのですが、今は基本的にシンプルなスキンケアが中心です。最近は、鍼とかテクニカルなものも取り入れたりして、一つのことを何十年もやってきたプロの技術と知恵というのはすごいなと感じています。
ーこれまでにお仕事や日常生活で関わってきた方々の、どのようなところに美しさを感じますか?
柔らかさと、誠実さですね。あとは、よく脳みそを使っている人(笑)。相手の置かれた状況や伝えるタイミングなど、様々なことを考えている人は色気があって、しなやかな人が多いと思います。考え抜いた上で出てくるものが結果的にシンプルでも、考えている様子が垣間見える瞬間があるとすごくグッときちゃう(笑)。Instagramにアップするちょっとしたコメントなど、様々なところでその人の哲学がチラチラ見えますよね。
ー受け取る側の意識も大切ですよね。坂本さんは伝える時や受け取る時にどんなことを意識されていますか?
キリッとそのまま表現してもかっこいい、それが似合う人もいますよね。それは自分のキャラクター次第だと思いますが、私は柔らかく伝わるようにできたら良いなと思います。「passion is what makes you soft.」という言葉が好きで昔から自分のテーマにしています。ものすごく燃えているものがあるんだけど、それを様々なフィルターを通し、いろんな想像や方法を試した後、最終的に自分の心も柔らかくなり、相手にもその柔らかさが伝わる。自分もそうありたいし、柔らかな人が増えていくとうれしいですね。
坂本美雨(さかもと・みう)
Plofile/1980年生まれ。10代から音楽活動をスタート。現在1児の母であり、Instagramで娘の写真を投稿した「#今日のなまこちゃん」が人気。大の愛猫家としても知られ、動物保護活動を続けているほか、東京FM「ディアフレンズ」のラジオパーソナリティやナレーター、執筆など幅広く活躍しいている。
https://www.miuskmt.com
Photographs by MARUO Kazuho
Text by OBAYASHI Shiho
Edit by HATTORI Madoka、OBAYASHI Shiho
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