Culture  

連載 BEAUTY CINEMA CLUB #03
夏休みに観たい美しい映画

いま観たい新作映画から、あなたの心に効く名作映画を掘り下げてご紹介するBEAUTY CINEMA CLUB。第3回目は、もうすぐやってくる「夏休み」をテーマにお届けします。誰もが心奪われる美しい夏の情景と主人公たちが抱える様々な心情を美しく描いた作品たちとともに夏休みをスタートさせましょう。
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夏が紡ぐ美しくも悲しい再生の物語

フランスの新鋭ミカエル・アース監督の『サマーフィーリング』は、美しい夏の光に満ち溢れた映画だ。ふたりの男女が、ベルリン、パリ、ニューヨークで過ごす3つの夏。じめじめとした日本の夏に慣れている身からすれば、3つの夏はどれも素晴らしく爽やかで、優雅な夏の風景にうっとりと見惚れてしまう。だがその美しさの裏には、言いようのない悲痛さが張り付いている。
『サマーフィーリング』は、大きな喪失を経験した人々の再生の過程を描く(ミカエル・アース監督は、現在公開中の『アマンダと僕』でも、姉を突然失った弟と姪のドラマを紡ぎ出している)。映画は3年という長い時間を丁寧に追うが、登場する場面はあくまでも夏の季節だけ。1年ごとに訪れる夏の景色を通して、彼らの抱える痛みとその回復の過程が徐々に浮かび上がる。
1年目、ベルリンでの夏。ベルリンの美術学校で働く女性サシャは、ある日突然病に倒れ、意識を取り戻すことなく亡くなってしまう。サシャの恋人ロレンスは、呆然としながらも、パリからやってきたサシャの家族とともに彼女の死を受け止める。サシャの妹ゾエもまた姉の死に衝撃を受け、残されたロレンスを心配げに見つめている。2年目、パリでの夏。ホテルで働くゾエは、一人息子をもうけた夫と別居中。パリへ遊びに来たロレンスとゾエは久々に再会するが、ロレンスはまだサシャの死から立ち直れずにいる。またアヌシーにいるゾエの両親も、娘を失った苦痛を必死で耐えていた。3年目、ニューヨークでの夏。ニューヨークで暮らし始めたロレンスのもとに、ゾエが休暇を楽しみにやってくる。ふたりは過去の思い出を語り合いながら、それぞれに新しい一歩を踏み出していく。
ロレンスとゾエ、そして彼らを取り巻く人々の感情は常におぼろげに揺らめいている。どこかぼんやりとした表情を浮かべるロレンスも、そんな彼を寂しげに見つめるゾエも、それぞれの感情を心の奥深くに抱えたまま、光溢れる都市を、真っ青な海辺を、木々の生い茂った湖畔を彷徨いつづける。彼らは激しく泣き叫んだりはしない。ときには夏を思いっきり楽しみ、かと思えば突然溢れるように涙をこぼし、沈黙のままじっと抱き合いもする。悲しみの乗り越え方なんて誰にもわからない。それでも3度目の夏の終わりが近づき、彼らの長い喪の期間もまたゆっくりと終わりの気配を見せる。ここには、時間の経過とそれに伴う人々の感情の変化が、繊細に、かつ 鮮明に記されている。

『サマーフィーリング』予告_7月6日公開

『サマーフィーリング』
全国公開中
配給:ブロードウェイ
公式サイト:summerfeeling.net-broadway.com
©Nord-Ouest Films - Arte France Cinéma - Katuh Studio - Rhône-Alpes Cinéma

少女が過ごしたひと夏の恋とバカンス

夏といえばバカンスと恋の季節でもある。『海辺のポーリーヌ』(エリック・ロメール監督、1983年)は、まさにこのふたつを主題にした最高の夏休み映画。舞台はフランスのノルマンディー。従姉マリオンに連れられて、15歳のポーリーヌは海辺の別荘へやってくる。離婚経験のあるマリオンは、海で知り合った遊び人の民族学者アンリと出会い、夢中になる。ポーリーヌも、海で出会った少年シルヴァンと仲良くなる。恋愛経験豊富なマリオンと、まだ恋が何かも知らないポーリーヌ。4人の男女は別荘と海を行き来しながらそれぞれの恋を楽しむが、ここにマリオンの元恋人、海でキャンディを売る若い女が加わり、恋の雲行きは次第に怪しくなっていく。ちなみに本作でアンリ役を演じたのは『サマーフィーリング』でサシャの父親役として出演しているフェオドール・アトキーヌ。
恋人たちのどちらかの気持ちが強くなれば、もう一方は尻込みする。一方が熱く見つめれば、相手は視線をそらす。恋という名の力関係は、いつまでたっても安定しない。6人の男女の関係はややこしくからまり合い、突如終わりを迎える。だがバカンスの最後、別荘の門に鍵をかけたポーリーヌとマリオンは、妙にさっぱりとした顔をしている。恋の終わりと夏の終わり。女たちはひとつ賢くなり、街へと帰っていく。
海辺でのバカンスとつかのまの恋。『海辺のポーリーヌ』には、夏に必要なものすべてが詰まっている。観光客でひしめく海辺の様子。風にそよぐ草木のかすかな音。明るさを残したままの夏の夜空。これらの美しい光景を見ているだけで、本当にバカンスを過ごした気分になってくる。ポーリーヌの着るセーラーシャツや、マリオンが大人っぽく着こなす真っ白なリネンのワンピースなど、彼女たちのファッションも魅力的。フランス娘たちが夏を満喫する様子は、製作から30年以上経った今でも古びることなく、見る者の目を楽しませてくれる。
『海辺のポーリーヌ』
DVD 4,800円+税
発売元・販売元:紀伊國屋書店
©1983 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

不思議なふたりと体験する最高のサマートリップ

フランスでの恋の夏に続いて紹介するのは、日本の夏休みの様子をたっぷり描いた映画。北野武監督の『菊次郎の夏』(1999年)は、その前年に撮られた『HANA-BI』(1998年)とはまったく違う、心温まる夏の旅映画だ。といっても、この映画にもまたどこか寂しくせつない印象が残るのだけれど。
『菊次郎の夏』は、小学生の男の子が、夏休み、離れて暮らす母を訪ねて東京から愛知県の豊橋市まで旅に出る物語。タイトルの「菊次郎」は少年の名前ではない。少年・正男と一緒に旅をする、東京の下町に住むチンピラ中年の名前だ。この役を北野武監督(ビートたけし)自身が演じている。正男の母を訪ねる旅は、実は映画の中盤あたりで終わってしまう。母との再会劇は結局悲しい結果となり、ふたりは東京へ戻ることになるからだ。
とぼとぼと帰り道を歩き続けるふたり。だがその絶望的な帰り道こそが、彼らにとって本当の夏休みの始まりとなる。菊次郎は正男を励まそうと必死になり、失敗をくりかえしては、正男に呆れられたり慰められたりする。やがて彼らのまわりに旅の仲間たちが集まりだすが、みなどこか風変わりで、バカげた遊びに興じてばかり。だが子どものような大人たちの道化ぶりが傷ついた正男を癒やし、菊次郎と正男の間に、友情にも似た不思議な関係が芽生えてくる。こうして、菊次郎おじさんとの可笑しなドタバタ旅行は、少年にとって特別な夏休みになる。
悲しい記憶が張り付いた夏も、恋にふりまわされた夏のバカンスも、大人と子どもの夏休みの旅も、いつかは終わりを迎える。寂しさを感じながら、人々は日常の中へ戻っていく。同じ夏はもう二度とやってこない。だからこそ人は夏の到来を渇望するのだ。次はどんな夏になるだろうかと不安と希望を抱きながら。そうして、自分が体験しなかった夏を、あるいはいつか体験するかもしれない夏を観るために、私たちは最高の夏映画を探し続ける。
『菊次郎の夏』
発売中
Blu-ray・DVD 各3,800円+税
監督:北野 武
発売元・販売元:バンダイナムコアーツ
写真提供:株式会社バンダイナムコアーツ
Text by Rie TSUKINAGA
Edit by HATTORI Madoka、OBAYASHI Shiho
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