Culture  

連載 「モモ」って知ってる?
― 旅する料理人とおいしい話 vol.1

「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに、世界中を旅しながら美食を追い求める料理研究家・山田英季さん。世界各国を渡り歩いてきた山田さんが旅先で出会った、おいしくて美しい食べ物にまつわるストーリーと再現レシピをお届け。初回はネパールの山奥にある村、コタンで出会った「モモ」のお話。
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僕が初めてネパールという土地に足を踏み入れたのは、4年前の日差しの照り返しの強い夏の時期のこと。日本に住むネパール人のシャラド・ライという友人が作った小学校を訪ねて、彼の育ったコタンという村へ旅に出かけた時だ。当時はまだ小学校に給食がなかったので、何かお手伝いすることはできないかと思い、日本式の給食カレーを作らせてもらった。その時に一番印象的に感じたのは、ネパール人は子どもも大人も“よく食べて、よく笑う”ということ。

 

あれから4年が経ち、再び子どもたちに会いに行くのがこの旅の目的。

 

旅の前日、僕は都内での仕事を片付けながらネパールに思いを馳せ、ワクワクしていた。うわの空で仕事をしたせいか、パッキングにたどり着いたのは日付が変わった朝方だった。スーツケースに衣類と非常食、カメラやパソコンをねじ込みなんとか時間通りに成田に向かった。

 

飛行機は成田を出発し、タイでトランジットした後にネパールのカトマンズにあるトリブバン国際空港にたどり着いた。

 

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現地で一泊し翌日コタンへと向かう。ただコタンという村は標高の高い山奥にあり、いくつもの峠を越えて行かなければならないのだ。およそ260kmに及ぶ長い道のりをインド車に揺られながら――いや、ところどころ弾みながら舗装されていない山道を移動すること9時間。そこに旅の目的地、コタンが現れた。

 

 

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この村には現地の人しかいない。観光地でもないのでなかなか訪れる機会のない場所だ。村に到着してすぐに小学校を訪ねると、4年前と変わらず子どもたちが笑顔で迎えてくれた。

 

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この村の子どもたちの笑顔は特別だ。長時間の移動と悪路で腰とお尻が悲鳴をあげていたことも忘れ、ちょうど休み時間だった子どもたちに混じって、ドッジボールやサッカーをして遊ぶ。彼らのエネルギーは国境を超えて人を幸せにする力がある、とほっこりとした。

 

小学校での見学を終え、友人に連れられてお茶や軽食が食べられるという近くの食堂に入った。すぐ目に飛び込んだのは、店主が作業台で小麦粉を水で練り、細長く伸ばしたであろうものを、手際よく「トントントン」と切っている様子だった。

 

 

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これが、今回のおいしい話「モモ」のはじまりだった。店主は次に、麺棒で生地を薄く円盤状に伸ばし、お店を一緒に切り盛りする娘であろう女性に手渡した。ここから彼女は中国の点心師さながらの手さばきで、鶏肉と玉ねぎなどでできた餡を生地にのせ、目にも止まらぬ速さで小籠包のような形を作っていく。その手際の良さとおいしそうな香りに吸い寄せられて、気がつくと僕はカメラを構えたまま彼女にものすごく接近していた。顔を上げると苦笑いしている彼女と目が合い、恥ずかしくなって僕は思わず会釈した。キレイに包みあげられたモモは、アルミでできたバーロという専用のせいろに並べられ、蒸されていく。

 

まだかまだかと待ちわびているとその時はきた。彼女はバーロを一段外し、店に入ってから一度も座ることなくキッチンの前に突っ立ていた僕の前へと持ってきた。店内は一気に鶏ガラスープに玉ねぎの甘みを足したような、なんとも言いようのない至福の香りが立ち込めた。

 

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そして、彼女がアルミの皿に10個のモモをのせたとき、僕は我慢できずにその皿を受け取ろうとしたが、彼女はまた苦笑いして大きく手でバツを描いた。「ソースをかけてないからまだよ」と、ネパール語のわからない日本人の僕に向かって優しくも大胆なジェスチャーで教えてくれた。僕はまた会釈をして、ソースがかかるのを待ち、やっと完成したモモにありつくことができたのだった。

 

なんとなく外で食べたいと、モモを持って外へ出た。ひとくち餃子感覚でモモを口に放り込み、ひと噛み。さっき店内に広がった鶏ガラスープに玉ねぎの甘みを足したような香りと味が肉汁とともに口の中に広がった。その次に、スパイシーなカレーの風味が鼻から抜け、衝撃のおいしさに目を見開いた。

 

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完食した後、ごはんのことばかり考えていた僕の目に映ったのは、思い思いの時間を過ごす地元の人たちと下校する子どもたち。その向こうにはヒマラヤ山脈がくっきりと見えていた。

 

そう、この場所で食べるモモの最高のスパイスはこの美しい風景なのかもしれない。

 

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【モモの作り方】

材料 2~3人分(25個分) 調理時間:40


<モモ>

  • 鶏ひき肉 200g
  • 玉ねぎ 2/3
  • にんにく 2
  • 餃子の皮 25

 

  • 塩 小さじ1/2
  • 白こしょう 少々
  • ガラムマサラ 小さじ1/4
  • サラダ油 大さじ3

 

 

<ソース>

  • トマト 1
  • 玉ねぎ 1/3
  • ししとう 4
  • 水 大さじ3
  • 塩 小さじ1/2
  • ガラムマサラ 小さじ1/4
  • サラダ油 大さじ2

 

<作り方>

 

① 玉ねぎ1個をみじん切りし、モモ用 2/3、ソース用 1/3 に分ける。にんにくは皮と芽を取り、みじん切りする。ししとうのヘタをとって斜め切りにする。トマトはヘタを取って1cm角に切る。

② フライパンにサラダ油とにんにくを入れて、弱火で香りを出し、ガラムマサラを入れて10秒ほど加熱する。

③ ボウルに鶏ひき肉、玉ねぎ、塩、白こしょう、②を入れて、粘り気が出るまでよく混ぜる。

④ 餃子の皮にスプーンで③をのせ、丸く包む(難しければ、普通の餃子の形でも良い)。

⑤ せいろに④を並べ、湯を沸かした鍋にのせて7~8分蒸す。

⑥ フライパンにソース用のサラダ油、玉ねぎ、ししとうを入れて、しんなりするまで炒め、トマト、塩、ガラムマサラ、水を入れて、中火で2分ほど煮詰める。

⑦ 蒸しあがったモモを器に盛り付け、ソースを添えれば出来上がり。

 

 

 

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山田英季(やまだ・ひですえ)
Profile/料理家。フレンチ、イタリアン、和食などのレストランでシェフを歴任後2015年に〈and recipe〉を立ち上げ、「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに活動中。著書に『にんじん、たまねぎ、じゃがいもレシピ』(光文社)、『かけ焼きおかず かけて焼くだけ!至極カンタン!アツアツ「オーブン旨レシピ」』(グラフィック社)など。
http://andrecipe.tokyo/
Photographs by IZAKI Ryutaro
Text & Travel Photography by YAMADA Hidesue
Edit by TAJIRI Keisuke, KAN Mine
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