Culture  

連載 CREATOR'S EYE 第8回
シトウレイが出会った、至福の読書空間「箱根本箱」

“いま”の時代や文化をつくる人たちが、出会えてよかったモノ・コトを発信するコラム「CREATOR'S EYE」。今回フォトグラファー・ジャーナリストのシトウレイさんがオススメするのは、2018年にオープンしたブックホテル「箱根本箱」。独特のコンセプトを持つ空間から得た体験や読書の底なしの楽しみ方をつづります。
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読むだけじゃない、本の価値

ファッションに興味を持つ前の小さい時から読書が好きで、早稲田大学の教育学部に入学したのも日本文学を勉強したかったからでした。誰かが「良い文章をどれだけ書けるかはどれだけ読んだかで決まる」と言っていたのを聞いたことがあって。ストリートファッションを発信するメディア「STYLEfromTOKYO」をはじめてから写真に添える文章を書くようになって、読書量が自分の出力につながることを実感した時、点と点が線で結びついたような気持ちでした。
私にとって、箱根にあるブックホテル「箱根本箱」はオープン当初からずっと行きたかった場所で、先日ようやく行けた時は本当に感動しました! 館内にはいたるところに本があって全部自由に読むことができ、欲しかったら買うこともできる。自分じゃ選ばないようなブックディレクターの選書を見たり、新しい作家と出会ったり、それだけで面白いんです。
何よりも環境がすごく良くて! オーガニックのコーヒーとお茶が飲めたり、好きな椅子に座って本が読めたり、ベランダにはハンモックもあったりと、隅々まで、ゆっくりと自分のペースで本を読む空間になっているんです。なかでもイームズのチェアはお気に入りで、3、4時間座って本を読んでいても疲れなくて快適。ホテルにはテレビがなくて、本当に読むかくつろぐかだけ。世間の喧騒を離れて読書だけに没頭できるという経験はそれまでなかったので、ずっと本の世界に入り込んでいられました。

新しい視点をくれる本の可能性

私の大好きないとうせいこうさんがセレクトした本もあったんですが、『ズミラマ』っていう1980年代の漫画を読んでみたらシュールすぎて。いまだったら絶対発売できないような内容で、ホテルのためにわざわざ探して取り寄せたんだなと感心しました(笑)。
いとうせいこうさんは音楽も思想も、1990年代のあの時代を最初に切り取ったパイオニアだと思うんです。いろんなことに興味の赴くままいきなりチャレンジする、自分のフィールドと全然違うところへ行くフットワークの軽さにはすごく影響を受けます。多くの人は得意なものから次に派生するじゃないですか。でも、いとうさんはギターを始めて植物に凝り始めて政治的活動もやって、点と点をつなげるのではなくそれぞれが点でしかないんですよね(笑)。大人になると、いままでのキャリアをブラッシュアップさせる方が安泰と思ってしまいがちだからこそ、ゼロから始めてゼロのまんまで「やっぱだめだったわ〜」となる可能性があっても挑戦するというそのマインドはとってもすばらしいなって思います。
あとおもしろかったのが、最果タヒさんの詩集! 漫画も詩集も普段は手に取らないんですけど、あの読書空間にいると時間もあるからちょっと読んでみようかなって思えたんです。彼女の本は、言葉の音のリズムを大切にしていて感銘を受けました。言葉を使う仕事をしている方だから、言葉に対してものすごく慎重で思い入れがあるのかと思いきや、「意味なんてなくていい、もっと軽やかに捉えればいい」というスタンスの本だったんです。私が触れたことのない価値観だったので、衝撃的でしたね。

好きなものを考え続けること

箱根本箱のように、清潔感があっていいにおいの空間がとっても好きで。カフェとかヘアサロンとか、いいにおいがするところはそれだけで嬉しくなります。 私、図書館は一生いられる自信がある! においもですが、空間としても一番好き。なぜなんだろうって考えたことがあるんですが、あそこには生涯かかっても読みきれない膨大な量の本があるからなんだなって。自分のキャパシティを超えた何かがある。それって、自分の知的探究心や好奇心を死ぬまで持ち続けていられるってことじゃないですか。
自分の好きな領域でものすごく圧倒的な存在、そして死ぬまで、いや死んだ後も自分の好きなもので溢れる幸せがある場所は、図書館しかない。
読みたい本を選ぶ時、人生かけてもすべては読み切れないことが解っているからこそ吟味したい、そうやって悩んでいる瞬間が一番楽しいんですよね。ファッションも、スタイリングで悩んだ後にお家のドアを開ける前が一番楽しいし、そういう意味では読書とファッションは似てますね。好きなもので悩むのって一番の贅沢だと思う。一方で、好きじゃないジャンルのものは本当に苦手で選べないから、人がおすすめするものをそのまますぐ信じて取り入れるようにしてます。これからも、本もファッションも写真も、興味が赴くまま好きなことだけで生きていくと思います。もしかしたら、急に植物を始めたりするかもしれませんけど(笑)。
箱根本箱
神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
TEL: 0460-83-8025
http://hakonehonbako.com
シトウレイ
Profile/日本を代表するストリート・スタイル・フォトグラファー、ジャーナリスト。毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、独自の審美眼で綴られる言葉と写真が人気を博している。ファッションにおける感性の高さと分析力で講演や執筆、テレビやラジオ出演、商品プロデュースやコンサルタントなどジャンルを超えて活躍中。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。また彼女自身のセンスもストリートフォトグラファーの権威「The Sartolialist」の著書で特集を組まれるなどファッション・インフルエンサーとしても活躍中。著書に東京ストリート写真集「STYLEfromTOKYO」(discover21刊)、東京ガイド「日々是東京百景」(文化出版局刊)がある。
STYLEfromTOKYO(http://reishito.com/
twitter @stylefromtokyo
instgram @reishito
Photograph by SHITO Rei(portrait)、HAKONEHONBAKO
Text by SHITO Rei
Edit by KAN Mine, TAJIRI Keisuke
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