Culture  

積み重ねてきた「出会い」の歴史 「星野リゾートとポーラの共通点」

2019年9月に創業90周年を迎えたポーラ。ポーラの歴史を振り返るとそこには「出会い」というキーワードがありました。一方で、ホテル・旅館運営を事業として全国に展開する星野リゾートの「星のや」は、その前身である「星野温泉旅館」が、長野・軽井沢の地に105年前に誕生。軽井沢の歴史が133年ということを考えると、いかに星野リゾートが地域に根付いた活動をしているのか伺い知れます。いまでは国内だけでなく海外にも広く展開している星野リゾートはなぜここまで大きく発展してきたのか。そこにも「出会い」を大切にしてきた背景がありました。
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外国人から始まった軽井沢の町

軽井沢はいまではリゾート地として多くの観光客で賑わっていますが、明治時代まで遡ると当時は町といえるほど栄えていない小さな村でした。そこへ後に「軽井沢の父」と呼ばれる一人の外国人が訪れたことをきっかけに軽井沢の文化は大きく動き出します。
その人物は外国人宣教師のアレキサンダー・クロフト・ショーさん。たまたま国内旅行の途中で立ち寄った際、軽井沢の美しく清らかな自然と気候が祖国スコットランドの風景に似ていたため、感銘を受けたそうです。そこから友人の宣教師たちを呼び、彼らが別荘を建て始めたことで、軽井沢に外国人文化が広がっていきました。
星野リゾートの創始者である星野国次は、いち早くこの地に注目し、1904年に温泉開発に着手、1914年に星野温泉旅館を開業します。当時、湧出していた湯は温度が低く、国次は熱い温泉を求めて15年にわたり温泉の掘削に没頭しました。その後、温泉事業を引き継いだ二代目星野嘉政は水力発電所を完成させ温泉加熱に使い、現在の星野温泉の礎を築きます。一方、もともと文化に造詣が深かった嘉政は星野温泉旅館に訪れる文化人を講師として招き1921年に「芸術自由教育講習会」を開催。以来、星野の地に別荘を構える文化人が増え、徐々に賑わうようになっていきました。こうして軽井沢の地で新しい文化がはぐくまれていったのです。
そして1960年に入ると、現在の上皇・上皇后夫妻が軽井沢で出会われ、皇室一家が軽井沢に訪れる様子が報じられたことで、軽井沢の名前が一般の人たちに広く認知され、現在のようなリゾート地へと変化していきました。こうしたことから軽井沢は地場産業や観光産業ではなく、外国人、文化人、皇室といった人と人との出会いで発展してきた町と言えるもかもしれません。
自然を残すことを第一に考えてつくられた星野エリア
一方、ポーラの歴史を振り返ると、創業者の鈴木忍は商売人ではなく化学者でした。鈴木が手荒れのひどかった妻のために、ハンドクリームを作ったところからポーラの歴史は始まりました。このように、ポーラも人(妻)との出会いから始まったのです。そのDNAはいまでも引き継がれ、あらゆるものがオンラインで買えるようになった今の時代でも、全国に約4,200店舗のショップを構え、46,000人のビューティーディレクターたちがそれぞれの地域に根ざして、お客さま一人ひとりと寄り添いながら関係をつくり続けています。

自然と人間の共生

こうして人との出会いが中心となって栄えていった星野エリアですが、自然との共生も大切なテーマ。星野温泉旅館は2005年に「星のや軽井沢」としていまの姿に生まれ変わり、自然に溶け込むような形で客室が配されています。「旅行というと宿泊施設は寝るためだけのもので、観光を目的に一日を外で過ごされる方も多いですが、ここは自然の豊かさを感じながらゆっくりと滞在していただくための場所として作られました」と星のや軽井沢の総支配人、金子尚矢さんは語ります。
水の上に浮かぶように建てられた「星のや軽井沢」
客室からテラスへ出ると眼前に広がるのは巨大な森林。ここは国設「野鳥の森」で、二代目の嘉政に鳥を観る楽しさを伝えた、中西悟堂(日本野鳥の会設立者)が愛した森でもあります。ここで1992年から星野リゾートグループのエコツーリズム部門として誕生した「ピッキオ」が、エコツアーと野生動物の保護管理を行っています。ピッキオで20年間にわたってエコツーリズムを行う代表の桒田慎也さんによると、「観光地は人が訪れることで、環境資源が破壊されてしまうこともあります。
ピッキオでは、体験した来訪者に、地域の自然を理解しその価値に気づき、未来にこの自然を残していきたいという思いを持ってもらいたいと考えており、そのためにエコツーリズムを行っているのです」と語ります。経験豊かなピッキオスタッフと自然の中を散策すると、今まで気が付かなかったような新たな発見や、生き物のリアルな暮らしぶりを知ることができます。ただ美しい自然を満喫するだけでなく、自分の中に新しい価値観や視点をもたらすこと、それが星野リゾートが提供している自然との出会いなのです。
森の中にあるピッキオ野鳥の森ビジターセンター

未来を作るのは、出会いとコミュニケーション

こうして様々な活動を展開する星野リゾートですが、2019年2月に新たな宿泊施設「BEB5 軽井沢」がオープン。「仲間とルーズに過ごすホテル」をコンセプトに、コの字型に建てられた建物の中央には「TAMARIBA」と呼ばれるスペースがあり、中庭、カフェ、ラウンジなどが、シームレスにつながっています。
夜になると宿泊者が集い、自然なコミュニケーションが生まれる
フロントもシンプルなつくりでカウンターにはDJ機材がセットされています。スタッフが時間帯に合わせたレコードをかけており、リクエストも可能です。
「これまで星野リゾートとは縁遠かった新しい人たちと出会うために作った場所です。それは20〜30代の若い人たちで、彼らは上の世代と比べるとあまり旅行をしません。旅先でも全てをケアしてくれる高級なホテルより、自由に楽しく過ごせる空間を求めている傾向にあります。なのでDJ機材を入れたり、おもてなししすぎないようにしたりという試みで、お客さまにとって心地良い空間を模索しています」と総支配人の大塚駿亮さんは語ります。
自動チェックイン機を備えたフロント。カウンターの上にはレコードが吊り下げられている
実際にロビーを見渡してみると、仮眠する人もいれば勉強する人の姿もあり、それぞれが好きな場所で思い思いの時間を楽しんでいます。スタッフと宿泊者の関係性も次第にでき、程よい距離感を保ちながら良いコミュニケーションが生まれているようです。
同じくポーラでもお客さまとの新しいコミュニケーションにチャレンジしています。2017年には「Touch & Talk」をテーマにした新コンセプトショップをオープン。これまではビューティーディレクターがお客さまの悩みに要望を聞きながらベストな商品を提案する「提案型」の接客でしたが、お客さま自身が気軽に色々な商品に触れながら自分の価値観やセンスで選び取る「キュレーション型」の接客に。店舗そのものもアートギャラリーのようにサイエンスとアートを融合させたデザインで、感性に響く空間になっています。美に関する様々なトークをしながら、ビューティーディレクターがパートナーとなり、お客さまと新しい関係をつくっています。
新コンセプトショップの渋谷ヒカリエ ShinQs店。最先端の肌研究とアートを融合させ、これまでのショップイメージを覆すデザインに
こうして星野リゾートとポーラは同じ時代を生きながら別々の文化をつくってきました。活動内容は違うものの、両者がここまで長いあいだ社会と関係を作ってきた背景には、モノやサービスを中心にして売ることではなく、人との出会いを大切にしてきたからかもしれません。これからさらに効率的な世の中になり不必要なものはなくっていきますが、出会いから始まる価値あるストーリーはこれからもずっと続いていくのでしょう。
Photograph by OHATA Yoko
Text & Edit by TAJIRI Keisuke
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