Culture  

連載 台中のかたまり肉「魯肉飯」と、恋のこと
― 旅する料理人とおいしい話 vol.2

「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに、世界中を旅しながら美食を追い求める料理家・山田英季さん。世界各国を渡り歩いてきた山田さんが旅先で出会った、おいしくて美しい食べ物にまつわるストーリーと再現レシピをお届け。第2回は台湾の台中で出会った、一味も二味も違う「魯肉飯(ルーローハン)」のお話。
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週末の台湾旅行、2泊3日の短期決戦! こんな計画を立てたことがある人は結構いるのではないだろうか。僕もその一人で隙を見つけては台湾を訪れている。僕の台湾のイメージは「安い、おいしい、マッサージ」。疲れを癒すにはぴったりの三拍子がそろった場所だ。それに、日本語もしくは片言の英語でなんとかなるし、優しい人ばかりだから安心極まりない。ちなみにマッサージに行くなら「夏威夷養生行館」がおすすめ。台北に住む友人で作家の青木由香さんに教えてもらったのだが、僕は一度の旅で数回通っている。
そうして何度か台湾を訪れているうちに大好きになった食べ物が、魯肉飯(ルーローハン)である。豚肉を細切りにして甘辛く煮たあと、ツヤツヤのごはんの上へ。食べる時は「チャッ、チャッ、チャッ」とお箸が茶碗にあたる音を立てながら、お茶漬けばりに勢いよく口の中に放り込むのが、昭和の日本の食事スタイルのようで妙にしっくりくる。
台湾を歩けばどんなお店でも必ず食べることができる魯肉飯だが、その味に衝撃が走ったのは、何度かの旅で台北にも慣れ、少し違うところに行こうと思った時のことだった。台北から新幹線に乗って50分ほどのところにある台中に足を伸ばした先にその出会いが待っていたのだ。
それでは、台中の旅の話をしよう。
この日は夕方に台北を出たので、台中に着くと辺りはもう暗くなっていた。ホテルにチェックインし荷物をおろしてから、食べ物がメインの中華路夜市にタクシーで向かった。夜市に着き、歩きながら町の賑わいを楽しみ、今晩のお目当てのお店へ。暗くなっても台湾は楽しい。いろいろな場所で大小様々な夜市があるので、おいしいものにもアジアらしい活気にも遭遇することができる。大通りに面したローカル感漂う夜市の屋台には、ドライブスルーのように店先にバイクを寄せて、またがったままでごはんを注文しにくる人も多い。
そして、僕はここで懐かしさとアジアの香りがする絶品オムライスに出会うのだ。到着して店の奥に席を取り、僕はチャーハンとイカのスープを注文。地元の人たちが食べているものを見ると、卵にケチャップと、昔懐かしいオムライスのようなものばかり。「んっ! あっちのテーブルにも、こっちのテーブルにもオムライスらしきものが……。これは名物なのでは?」そう思っているうちに、僕のテーブルにチャーハンとイカのスープがやってきた。
ツヤツヤのチャーハンと透き通ったイカのスープも絶品だったが、どうしてもそのオムライスが気になって仕方がなかったので、店員さんが次から次へと運んでくるオムライスを指差して注文した。口に含むと、どこか懐かしいオムライスの味。定番の肉や玉ねぎも入っていて、日本では珍しいキャベツの食感もいい。「台中まで来てオムライス?」と思うかもしれないが、これがジワジワくるおいしさでたまらない。このささやかな感動は「陳記四十年代老店 雞蛋蚵仔煎」で味わうことができるのでぜひ訪れてみてほしい。
こんな感じで台中の初日を終え、ホテルに戻り眠りについた。翌朝、今回の旅のメインである「魯肉飯」を食べるために、台中屈指の美食市場「台中市第二市場」へと向かう。この市場は1917年、日本による台湾統治時代に、日本人のために作られた高級市場だったそうだ。そう言われてみれば、レンガ作りなどは昔の東京駅に似ているような気もする。
市場の門をくぐると現れる食堂。そう、ここに僕がどうしても食べたい魯肉飯がある。お店の名前は「山河魯肉飯」。前回訪れたのは3年前だったか。変わらずに営業していたのでホッとした。早速店頭の列に並ぶ。待っている間、お店に漂うおいしい台湾の香りにお腹を空かせた。
しばらくして順番がやってきた。目の前で煮込まれている肉類やお惣菜を指差して、魯肉飯と煮込み卵、副菜を数品注文した。
座っていた席に戻り、注文の品が届くのを待つ。隣の人が食べ終えて空になったお皿を見て、それさえもおいしそうに見えてくる。まだ数分しか経っていないのに待ち遠しい。そしてついにやってきた、魯肉飯だ。
お気付きだろうか。冒頭で魯肉飯は「肉を細切りにして」と書いたのに、このお店ではかたまりで出てくるのだ。肉厚のお肉から甘辛いタレが、粒立ちのよいごはんへとどんどん吸い込まれていく。我慢できずにすぐさま箸を入れると、トロトロのお肉はその身を僕に委ね、無抵抗にほぐれていった。そしてパクリと頬張ると、ほどけるように溶けていく。台湾醤油の甘味と豚肉の旨味。それを吸ったごはんが口の中で混ざりあって、喉の奥へと消えていくのだ。食べては消えを繰り返し、あっという間に完食。
寂しい、だいぶ寂しい。今までそこにいた魯肉飯はもういない。「あぁ、これは恋だ」と失ってから魯肉飯の大切さに気づくのだ。「今から謝れば戻ってきてくれるだろうか。いや無理だ。きっと時が解決してくれるに違いない」。そんな問答を一人で繰り返しながら、次に来た時は2杯注文することを決めて店を後にした。
今回の旅で、また台湾が好きなった。
おまけでご紹介したいのが、冒頭で名前のあがった作家の青木由香さんのお店。台北に行くなら絶対に寄って、お土産を山ほど買った方がいい。
「你好我好」
台北市大同區涼州街45號
TEL:02-2557-6665
営業時間:10:00~18:00(水曜定休)
http://nihaowohao.blogspot.com/
【魯肉飯(ルーローハン)の作り方】

材料:4人分 調理時間:2時間

豚バラブロック 500g
しょうが 10g
にんにく 1かけ
ねぎの青い部分 1本分


醤油 大さじ3
オイスターソース 大さじ1
砂糖 大さじ2と1/2
酒 大さじ3
水 600㎖
五香粉 少々

ごはん 適量
半熟ゆで卵 2個

<作り方>
① しょうが、にんにくの皮をむいて薄切りにする。
② 豚バラブロックは厚さ2cmほどに切り分ける。
③ フライパンに②を脂身を下にして入れ、焼き色をつけながら全面を中火で焼く。
④ 鍋にA、①、③、ねぎの青い部分を加えて、弱火で1時間半煮込む。
⑤ 火を止め④の豚肉をごはんの上に乗せ、半熟ゆで卵を添えれば出来上がり。

山田英季(やまだ・ひですえ)
Profile/料理家。フレンチ、イタリアン、和食などのレストランでシェフを歴任後2015年に〈and recipe〉を立ち上げ、「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに活動中。著書に『にんじん、たまねぎ、じゃがいもレシピ』(光文社)、『かけ焼きおかず かけて焼くだけ!至極カンタン!アツアツ「オーブン旨レシピ」』(グラフィック社)など。
http://andrecipe.tokyo/
https://www.instagram.com/andrecipe/
Photographs by IZAKI Ryutaro
Text & Travel Photography by YAMADA Hidesue
Edit by KAN Mine
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