Culture  

連載 CREATOR'S EYE 第10回
コラムニスト・山崎まどかがホイット・スティルマンから学んだ「自分の世界の作り方」

“いま”の時代や文化をつくる人たちが、出会えてよかったモノ・コトを発信するコラム「CREATOR'S EYE」。今回はコラムニスト・ライターとして活躍する山崎まどかさんが敬愛する、映画監督ホイット・スティルマンの生き方から学んだ「自分らしさ」の本質を綴ります。
share
映画監督として30年に近いキャリアを持つホイット・スティルマンは『メトロポリタン』や『バルセロナの恋人たち』でその名を知られてはいるが、これまでたったの5本しか映画を撮っていない。さらに3本目の『ラスト・デイズ・オブ・ディスコ』から4本目の『ダムゼル・イン・ディストレス』の間には、13年ものブランクがある。

取り巻く環境のみを描く、スティルマンの表現手法

スティルマンの作品のほとんどは、彼がよく知る身近な世界を描いたものだ。そういったテーマを取り上げる映画監督は少なくないかもしれないが、彼には父がケネディ大統領時代の商務長官補佐、母がフィラデルフィアの名家出身という上流階級の家庭に育った背景がある。そういうWASPのお金持ちたちは自分たちの世界について多くを語らず、社会に向けて表現しようという気持ちが希薄な傾向がある。一方でそうしたバックグラウンドを活かしたスティルマンの映画はとてもオリジナリティが高い。本人も大変に変わった人だという噂もある。独特のユーモア感覚を含め、映画業界において唯一無二の存在なのだ。
彼のデビュー作『メトロポリタン』をVHSテープで初めて見たときの衝撃は忘れられない。東海岸の有名大学に通う良家の子女たちのメンタリティを、ホリデー・シーズンを通して垣間見せるその手腕には魅せられた。また、デビュー作以降の数少ない監督作では、作風が一貫しているのにも驚いた。常に自分の周囲、半径100メートル以内の世界の話。スティルマンの映画は実にシンプルで、シリアスな問題は語らない。視野が狭いと言われればそうかもしれない。それでも、徹底して自分が深く理解している物事しか描かないところが潔く、嘘がないように感じられる。世間の流行、批評や賞とも無関係で独自のスタイルを貫いているが、頑固に自分の流儀を守っているというわけでもなく、飄々としているのだ。

自然体の自分が揺るぎない個性を作る

スティルマンは好きなことを好きなようにしかやらないし、嘘はつかない。そして、ささやかでも自分なりの様式を持ち、ブレないこと。それが「自分の世界」を持つことの基本なのだと、私はホイット・スティルマンから教わった気がする。彼は世間におもねったりしないけれど、他の監督が決して真似できないものを持っているし、熱狂的なファンが少なからずいる。私は創作において、彼の人生観をお手本にしたいと思う。
山崎まどか(やまざき・まどか)
Profile/コラムニスト。女性文化やアメリカのポップカルチャーについての著書多数。最新作は「映画の感傷(DUブックス)」
Text by Yamazaki madoka
Edit by Kan mine
Photo ©Kimberly Butler/Whitney J. Stillman/ゲッティイメージズ
share