Culture  

連載 雨濡れる港町ウラジオストクを温める、魚介スープ「ボルシチ」― 旅する料理人とおいしい話 vol.3

「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに、世界中を旅しながら美食を追い求める料理家・山田英季さん。世界各国を渡り歩いてきた山田さんが旅先で出会った、おいしくて美しい食べ物にまつわるストーリーと再現レシピをお届け。第3回は雨の滴るなか、ロシアの港町ウラジオストクで出会った、極上の「港町の魚介のスープ」のお話。
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旅の舞台はロシアの極東部に位置する、港町のウラジオストク。ウラジオストクに行くと決めたのは、近ごろ出張も旅行もアジアばかりで、そろそろ違う街並みや現地の人たちと出会いたかったからだ。そしてなによりチケットが安く、東京からたった2時間半で行ける手軽な場所というのが一番の理由だった。
出発の日、成田空港に向かいながらウラジオストクの天気予報を調べると、滞在期間は雨か曇りのバッドコンディション。少しテンションが下がり気味のなか、ウラジオストクへと飛んだ。
着くなり景色はどんより。空港からバスに乗り市内へ移動している間も、やはりどこか重い空気が漂っていた。なんとか楽しく乗り切ろうとカメラを取り出し、バスのなかから見える景色をパシャリ、パシャリと撮っていく。
そうこうしている間に、バスはウラジオストク駅に到着。キャリーケースのキャスターがところどころ溝にはまり、ゴロッ、ゴロゴロと歯切れの悪い音を立てながらホテルへと向かって行く。ホテルで荷物を下ろし、少し面倒だが、雨の降りだした町へと繰り出した。道に出来上がった水たまりをよけつつ、初めてのウラジオストクを歩き回る。旅にハプニングはつきものだけど、できれば軽快に歩きたい。特に初日は……。
そんな不安な思いがふっ飛んだのは、街灯に明かりが灯り始めたころ。雨に濡れた道路が街灯や車のライトの明かりを反射させ、光の水たまりをつくっていることに気づき、思わず何度も足を止め、カメラを構えてはシャッターを切った。こうして、雨の似合う町での楽しくて、おいしい旅が始まったのだ。
2日目も、雨の似合うウラジオストクの町をバスや路面電車に揺られ散策しながら、ピロシキ、ボルシチ、ビーフストロガノフ、ペリメニ(ロシア風水餃子)にブリヌイ(ロシア風クレープ)のロシア料理を堪能する。
ウラジオストクのグルメは、港町で獲れた海産物を使ったものが多く、どれもがおいしい。カニやエビ、ニシンにイカなどをシンプルに塩こしょうとディル(ハーブ)か、酸味の残るトマトベースで味つけしたものに、たっぷりとサワークリームをのせて食べる。
なかでも僕が気に入ったのは、魚介の出汁がたっぷりと染み出したボルシチだ。スプーンですくい、口に運ぶ度に魚介の旨みが僕の口角を上げ、「にんまり」してしまうのだ。周りの人から見るとかなり幸せなおじさんに映っているだろう。
ウラジオストクには、紹介しきれないほどのレストランや食堂、グルジア料理の名店があり、夜になるとすてきなバーも楽しめる。ロシア人デザイナーの手がけた服や雑貨を売るセレクトショップや、民芸品を集めたお店、キリル文字のかわいい文房具店。おいしいものやセンスの良いものがたくさんある。いつかどこかで「一番安くて、一番近いヨーロッパ」というコピーを見かけたが、僕もこれに賛同する。
すっきりと晴れた最終日。帰り道、雨続きの旅を思い出しながら電車に乗って空港へ向かう。 飛行機に乗り込んで、空からウラジオストクを見下ろすと、やっぱり晴れの日にも来ようと思わせてくれる緑の景色が広がっていた。
До скорой встречи.(ド スコーロイ フストレーチ)
また近いうちに会いましょう。
【港町のスープの作り方】
材料:4人分 調理時間:30分

はまぐり 4個(なければ貝ならなんでも)
エビ 4尾
玉ねぎ 1/2個
人参 1/2本
セロリ 1/2本
じゃがいも 2個

A
トマトピューレ 200㎖
塩 小さじ 1と1/2
黒こしょう 少々
水 600㎖
白ワイン 大さじ2

オリーブオイル 大さじ2
パセリ お好みで
<作り方>
①    皮をむいた玉ねぎと筋をとったセロリをみじん切りする。人参とじゃがいもは皮をむき、1cm角の棒状にする。はまぐりは砂抜きをする。エビは足と背ワタをとる。
② 鍋でオリーブオイルを温め、玉ねぎとセロリをしんなりするまで炒める。
③ ②に人参、じゃがいも、Aを加えひと煮立ちさせ、蓋をして弱火で10分煮込む。
④ はまぐりとエビを加えて、再び蓋をして5分煮込む。
⑤ 仕上げにオリーブオイルとパセリのみじん切りをかけて出来上がり。
山田英季(やまだ・ひですえ)
Profile/料理家。フレンチ、イタリアン、和食などのレストランでシェフを歴任後2015年に〈and recipe〉を立ち上げ、「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに活動中。著書に『にんじん、たまねぎ、じゃがいもレシピ』(光文社)、『かけ焼きおかず かけて焼くだけ!至極カンタン!アツアツ「オーブン旨レシピ」』(グラフィック社)など。
http://andrecipe.tokyo/
https://www.instagram.com/andrecipe/
Photographs by IZAKI Ryutaro
Text & Travel Photography by YAMADA Hidesue
Edit by KAN Mine
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