Beauty  

連載 〈美しさの秘密〉
第4回 歌手/声優・坂本真綾「コンプレックスを内面から美に変える」

伝統や風習に縛られず、様々な分野で活躍する人々にフォーカスし、彼らの「美しさ」の秘密を掘り下げる本企画。第4回目にご登場いただくのは、歌手や声優として活躍する坂本真綾さん。10代から活動を続けてきて、来年には40代を迎える坂本さんにとって、美とはどのようなものなのでしょうか。彼女の最大の魅力である「声」を手がかりに話を伺いました。
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大切なのは、良い声よりも気持ちを伝えること

ー坂本さんは歌手や声優など「声」を使って仕事をする機会が多いと思うのですが、理想としている美しい声のイメージはあるのでしょうか?
理想の声というのは正直ないんですよね(笑)。録音した自分の声を聞いたときに違和感を感じたことがある人は多いと思いますが、もちろん私もあります。自分が聞いている声と何かが違うなって。それは声だけではなく、容姿や性格も同じで。自分が思う自分と、他人が思う自分はちょっと違うという事実を抱えながら、みんなそれぞれ生きているのかなって。そういうことは誰にでもあって、一生変わらないと思うんです。
ー坂本さんも自分の声に違和感を覚えるというのは意外です。
職業柄、声を褒めていただくことは多いですが、皆さんがどういう意味で良い声だと言ってくださっているのかはよく分からないんですよね。先入観で勝手に良い声に変換しているのかも、と私は思ってるんですけど(笑)。
ー坂本さんのお仕事から、自然と良いものとして捉えるようバイアスがかかっていると。
ただ、長年やっていくなかで分かってきたのは、良い声であるかどうかはあまり関係ないということです。それよりも、そのときその場で一番伝えたい感情やメッセージを届けることの方が大切。それは歌や芝居にも、共通していることではないでしょうか。
ーそういった表現の場において、坂本さんが心がけていることは何でしょうか?
10代のころは自分をよく見せたいという気持ちが強くて、自分が嫌だなと思う部分は極力隠していました。でも20代、30代と年齢を重ねていくなかで、無理して隠そうとするとかえって目立つことに気づいたんです。だから、なるべくごまかさずに自然体でいたいと思うようになりましたね。

表現はしたい。でも、人前に出るのは苦手

ー「嫌な部分」を隠すというと、何かに対してコンプレックスのようなものを感じることがあるのでしょうか?
私、自分で人前に出る仕事を選んでおきながら、注目を浴びるのは好きじゃなくて(笑)。歌を歌ったり、芝居をしたりすることがただ好きなだけなんです。だから、ライブ直前まで「なんで私こんなことしているんだろう…」と思いながら準備をしていることもあります。ステージに上がってしまえば気にならないんですけどね。
ーそんなことを思っていたんですね。すごく堂々としているイメージがあったから驚きました。
もちろん、経験を積んでいくなかで少しずつ変わってきたと思います。ただ、もともと地味な性格なので、カリスマ性のある人みたいにみんなを引っ張っていくことができないのがずっと悩みだったんです。でも、カッコつけなくなってきてから楽しくなりましたね。別に完璧じゃなくても良いんだ、私のできることをしよう、と思うようになったのがよかったのかもしれません。
ー少しずつ自分の不完全さを受け入られるようになった?
そうですね。どんな人でも葛藤したり、躓いたりを繰り返しながらちょっとずつ前に進んでいると思うので、私もそれで良いと考えられるようになりました。
ー自然に生まれるコンプレックスと美しさ。それぞれ表裏一体の存在のようにも思えます。
おっしゃるとおり。結局は同じ場所にあるんですよね、「美」も「コンプレックス」も。不思議なもので、自分が嫌だなと思っていることに対してすごく褒められることもあったりして。その逆もしかりなんですけど。
ーそれを仕事で具体的に感じられた作品はあるのでしょうか。
新しいアルバムは、これまでで一番自分らしさを表現できたと思っています。何かの主題歌のようなシングルは盛り込まず、全体を通して統一感のあるアルバムに仕上がりました。そういう意味でも、いまの私の気持ちをすごく表現できた作品になった気がします。
ー制作を通して、新たな発見はありましたか?
そうですね。今回は初めてご一緒させていただいたアーティストさんも多く、それぞれの楽曲の色に染まる感じが新鮮で楽しかったです。そのなかで、若いころは「自分はこうなんだ」と決めつけていたことが多かったんだと感じました。自分で決めた枠から外れるのは決して悪いことではないんですけど、それを怖がっていた自分がいて。でも、いまはもう少し遊び心を持てているというか、失敗を恐れずに飛び込んでいけるようになりました。こだわりはあるけど、それを捨てるという選択ができるようになった。年齢を重ねる楽しさってそういうところにあるんだと思います。

内面から美しさが滲み出る女性になりたい

ー来年には40代を迎えますが、これから先、どんなふうに生きたいと思っていますか?
最近は、どうやったらカッコ良い40代や50代になれるのかなと考えを巡らせることが増えました。というのも、生き方って声にも顔にも表れる気がするんです。10代のころに在籍していた劇団の先生に「汚い言葉で罵ったり、人の悪口ばかり吐露したりしていると声が“悪く”なる」と言われたことがあって。もしかしたら、先生は私たちを教育するためにそういう発言をしたのかもしれませんが、私は本当にそうなんじゃないかと思うんです。生き方の延長線上に表現がありますから。
ーそれはつまり、その時期にしか出せない声の出し方や表現の仕方があるということでしょうか。
そうですね。10代のころ歌っていた曲を改めて聴くと、未熟さやぎこちなさはありますが、いまの自分には絶対に出せない味があってすごく良いんですよね。これから先、自分がどういうふうに変わっていくのか分かりませんが、その時々の年齢に応じてフィットする歌い方や表現の仕方を見つけていきたい。そういうふうに思えることができて、すごく幸せです。
ーその幸せは何があって感じられたのでしょうか?
今回のアルバムに、自分の持てる全てを出し切ることができたのが大きいと思います。やりきった満足感も十分だし、いままでで一番正直な自分が詰まっている気がします。もちろん反省点を探せばいくらでもあるんですけど、それも含んだ全てが「私」なので。かつてはストイックであることがすばらしいと思っていた時期もありましたが、その反面、理想にそぐわないと自分を責めることもあって辛かった。でも完璧であることをやめたら、「良いときも悪いときも自分なんだ」って余裕を持って生きる方がハッピーだと気づいたんです。力を抜いて、眉間にシワのよらない生き方をしていく。外見ももちろん大事ですけど、内面から滲み出るものが素敵な女性になりたいといまは思っていますね。
坂本真綾(さかもと・まあや)
Profile/1980年生まれ。東京都出身、歌手・声優・俳優。1996年シングル「約束はいらない」でCDデビュー以降、精力的に作品を発表。映画・海外ドラマではナタリー・ポートマン(「スター・ウォーズ」「ブラック・スワン」)、リア・ミッシェル(「glee」)、チン・セヨン(「オクニョ」「不滅の恋人」)ほかの吹替えを務め、アニメ・ゲームへの出演も多い。2003年より7年に渡り、ミュージカル「レ・ミゼラブル」でエポニーヌ役を演じる。2013年には、日本初上演されたミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~」のジルーシャ役が好評を博し、第38回菊田一夫演劇賞を受賞。KinKi Kids「光の気配」作詩、エッセイ執筆、ラジオパーソナリティなど、多方面で活躍。日本国内のみならず世界各国のファンから支持をうける。今年、11月27日に4年ぶり10枚目のアルバム「今日だけの音楽」をリリース。

www.jvcmusic.co.jp/maaya/
Photographs by NISHI Yukimi
Text by MURAKAMI Kodai
Edit by KAN Mine
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