長年にわたる研究開発の結果、日本初となるシワを改善する薬用化粧品「リンクルショット メディカル セラム」が誕生。研鑽を重ねた先に生まれる唯一無二の価値とは一体どういったものなのでしょうか。同じく、技術やアイデアを活かし長年の努力の結果宇宙への切符を手にした、宇宙飛行士の山崎直子さんにこれまでの経験を通して見えてきた、真実を探求し続けるその意義についてお訊きしました。
わずか10パーセント
女性として宇宙飛行士を志す決意
これまで微弱な炎症が繰り返されることによってシワができることは分かっていましたが、なぜ、微弱な炎症がシワにつながるのかについては分かっていませんでした。ポーラは、キズなどの部位に集まる「好中球」が放出する「好中球エスタラーゼ」がシワの原因のひとつであることを発見。そのメカニズムを搭載し、製品化に成功した薬用化粧品が「リンクルショット メディカル セラム」です。このリンクルショット メディカル セラムは、15年にわたる期間の末、2017年に日本で初めて「シワを改善する※1」医薬部外品として登場しました。そして宇宙飛行士として有名な山崎直子さんも、長年宇宙開発に携わり革新を生み出し続けてきた、日本を代表する人物のひとりです。
「リンクルショット メディカル セラム(写真左)」のデザインコンセプトは「ディスカバリー」。宇宙空間のスペースブルーに、輝く星のゴールド、そして宇宙服をイメージしたチャレンジングオレンジを取り合わせたデザインに。2020年、新たに発売した「リンクルショット ジオセラム(右)」もチャレンジングオレンジでデザインされている。
子供のころから宇宙への淡い想いを抱いていたという山崎さん。中学生時代には毛利衛さん、向井千秋さん、土井隆雄さんといった日本人宇宙飛行士が誕生したことで、一気に宇宙飛行士という職業を身近に感じるように。しかし当時は宇宙飛行士になる術が分からず、宇宙開発に携わりたいという想いからエンジニアを目指したと語ります。
「宇宙旅行時代が来ることを夢見て、大学の卒業課題では宇宙ホテルの設計図面を制作しました。他に、効率的に遠くまで行くための宇宙燃料補給所の設置方法や、宇宙で活動する人工知能の研究など、少しでも宇宙に近づけたらと思っていました」
大学で学ぶなか、宇宙開発事業団(現JAXA)で宇宙飛行士を募集していることを知り、東京大学大学院修了後に同社へ就職します。最初に配属された国際宇宙ステーション(以下、ISS)のプロジェクトチームでは、日本実験棟「きぼう」の構成要素をインテグレーションする事業を担当。実はJAXAのISSプロジェクトチームで技術職となった女性は山崎さんが初めてのことで、いまほど女性が活躍できる現場ではなかったそうです。
「私たちは訓練でも宇宙でも、性別関係なく皆同じ立場で仕事をしています。宇宙飛行士でなくとも、少しでも挑戦する意思があれば、多くの女性がいろいろな場所で活躍する機会が増えるはずです。それを気付かせてくれたのは、大学院時代に1年間アメリカへ留学したときに出会った70代のおばあさんでした。その方はなんと現役のヘリコプターのパイロットだったんです。とてもびっくりしたと同時に、自分のなかでパイロット=男性というイメージがあったことに気が付いて。私もそうでしたが、多くの人がアンコンシャスバイアスというか、自分のなかに無意識に芽生えた男性像・女性像が知らないうちに行動や思考に制限をかけていると感じたのです。このおばあさんとの出会いから性別も年齢も関係ないことを改めて感じ、さらに宇宙飛行士になることへの意識が高まりましたね」
信念を持ち待ち続けた、宇宙に行くまでの11年
宇宙飛行士に応募し、二度目の試験で合格してから過酷なトレーニングが始まります。実際には110キログラムもある船外活動用宇宙服の訓練服を着用し水の中で7時間の作業、飛行機を急降下させる無重力訓練は1日で40回繰り返すというハードさ。もちろん宇宙空間における危機管理のためのシミュレーションワークもおびただしい量。しかも訓練を経てすぐスペースシャトルに搭乗できるわけではなく、いつその日が訪れるかを待つ日々が11年続きます。
「自分だけではどうしようもなくて、国や組織との調整や社会の情勢に左右されるのは、宇宙飛行士も製品開発も一緒ですよね。私自身がいくら準備ができた状態でも、宇宙船に事故が起きたりと事態が急変することもあります。いつゴールが来るかは自分では分からないし、これをやっていれば必ず宇宙に行けるという保証もない。でも自分を信じてやり続けるしかないという意味ではリンクルショット メディカル セラムの開発も全く同じような状況だったのかなと想像します」
ポーラの「リンクルショット メディカル セラム」の開発も、誕生するまでに長い歳月がかかっています。シワのメカニズムを一から研究し直し、シワを改善する※1 医薬部外品有効成分である「ニールワン※2」を発見しました。しかし、すぐに認可は降りず、そもそも製品化できない可能性もあるとされながらも、諦めずに研究を続行。そして15年もの月日が経った2017年1月、日本で初めて「シワを改善する※1」医薬部外品の美容液として認可が降りたのです。山崎さんも、信じて走り続けることの大切さを語ります。
「訓練を開始して4年目の2003年、コロムビア号が空中分解を起こし搭乗員が犠牲になった事件を受けた時は、このまま続けて良いのか、自分が目指す道はこれで良いのかと悩みました。実現できるかの見通しが分からないなか、続けなければならないですから。ですが、多くの人たちの協力のもと訓練をしている以上は、最後までやり遂げたいと思い続けました」
2010年4月、ついに宇宙へ飛び立った山崎さん。ISSの中では当然予期せぬ事態も発生。そんなとき、地上での訓練はどのように役立ったのでしょうか。
「宇宙に行く前の訓練は、約90%が非常時対応のシミュレーションです。そこまであらゆるリスクを想定していても現場では不思議と訓練ではやらなかったハプニングが起こるんです」
しかし、同じトラブルシミュレーションではなくとも、訓練によって心身が覚えている優先順位に沿って臨機応変に問題を解決していったと言います。一歩間違えれば命の危険と背中合わせの宇宙空間において、仲間とのコミュニケーションを取るうえでも基本動作という意味でも、備えておくべき心構えは繰り返してきた訓練からしか得られないということでしょう。
使命は「人類の未来をつくる」こと
宇宙飛行士という想像しづらい職業の任務から、私たちにとって共通する気付きは果たしてあるのでしょうか。
「一番大掛かりな宇宙服を着た水中訓練では、多くの人々がサポートに回ってくれます。全員でひとつのことに携わったその時は、ひとりでは成し遂げられないことなんだと強く感じた瞬間でした。海外で現地の人と訓練をしている時、同じ目標を持った国際協力なんだと思ったことも大きいですね」
異なるバックボーンを持つ人々が同じ目標のために働く経験は、仕事のジャンルが違っても人に大きな気付きを与えるはず。現在は内閣府宇宙政策委員会委員や女子美術大学客員教授として、未来の宇宙開発を担い、民間企業との共同開発や、次世代のサポートを行う山崎さん。改めて、宇宙開発は人類の未来に何をもたらしてくれるのでしょうか。
「地球は宇宙船地球号といわれているように、ひとつの空間で人類も自然も共存していかなければなりません。地球自体がひとつの儚い宇宙船でリソースも限られているとなると、持続可能な社会が必要なのです。最近では、宇宙開発に民間企業が参入しやすくなるように環境整備を進めてきていることもあり、あらゆる企業が宇宙開発に寄与できる可能性があると思います。ポーラさんの技術も宇宙で活用されていくことを期待しています」
宇宙に行くことはどこか自分のルーツを探りに行く感覚に近いという山崎さん。ですが、宇宙という未知なる空間ではトラブルによる事故や死のリスクが常に付きまとっているのも事実です。
「宇宙へ行く前には遺書を書きますしリスクも感じましたが、恐怖はありませんでした。それよりも、トラブルによって宇宙開発そのものがストップしてしまうことへの危機感のほうが強かった。国際協力として皆で助け合いミッションを成功させることで宇宙全体を盛り上げていこうという強い想いがあったからこそ、自分自身に向けた怖さ、というものはなくなっていったのかもしれませんね。学生時代に構想したような宇宙ホテルができて、家族や友人をはじめ、たくさんの人が宇宙で過ごせる世界を実現したいという希望が活力になっていたのだとも思います」
山崎さんは、開発者として「遠くの地平線を見て行動すること」「好奇心を忘れないこと」「いろんな人や分野と繋がること」の3つを大切にしていると語ります
今後より多くの人が宇宙へ旅立てるようにしていきたいと、目を輝かせ繰り返す山崎さん。未来の誰かの力になることを望むその言葉は、リンクルショット メディカル セラムのミッションである「世界中の人に、悩みのない明るい未来を1日でも早く提供する」ことに通ずるものが感じられました。
※1 日本香粧品学会で定めた、新効能の取得のための抗シワ製品評価ガイドラインの評価基準において、有意性が得られました。
※2 全成分名称…三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na
山崎直子(やまざき・なおこ)
Profile/千葉県出身。2010年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションSTS-131に従事した。2011年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)退職後、内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、日本ロケット協会理事・「宙女」委員長、日本宇宙少年団(YAC)アドバイザー、宙ツーリズム推進協議会理事などを務める。著書に「宇宙飛行士になる勉強法」(中央公論新社)など。
Photo by Mochida kaoru
Text by Ishizumi yuka
Edit by Narahara hayato, Kan mine