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連載 ミライビラボ 「遺伝子解析でわかった、シミになりやすい人」

論文を読み解き、美のエビデンスに触れる「ミライビラボ」。今回は「シミ型遺伝子と日本人のルーツの関連」についての2つの論文を読み解きます。シミのもととなるメラニン生成に関わる重要な遺伝子「MC1R」を研究した結果、日本人にはシミ型と通常型の2種類が存在することが判明。さらに日本人のルーツである縄文人と弥生人の遺伝子を比較することで、現代に生きる私たちのシミリスクに遺伝的個体差があることが示唆されました。そのメカニズムの研究にあたったポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターの上級主任研究員で理学博士、本川智紀研究員に詳細を伺いました。
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シミのできやすさは遺伝が深く関わっていた

なぜ同じ日本人でも紫外線を大量に浴びてもシミにならない人とシミができやすい人、あるいは若年でもシミが出てくる人がいるのでしょうか? 一般的に知られている日差しなどの外的な要因、もしくは加齢による老化など内的要因以外にも何か重要な理由があるのではないか。生まれ持ってのキャラクター、つまり遺伝性が関係しているのではないかという問いから、シミと遺伝子の関連性を探る研究が始まりました。
まずはシミ発生メカニズムのおさらいから。紫外線を浴びたとき、皮膚の表皮は紫外線から身を守る茶色の色素である「メラニン」を作れと、表皮の基底層にあるメラノサイトという細胞に指令を出します。メラノサイトはメラニンを生成して紫外線をブロックし、その後メラニンは表皮の外へあかと一緒に放出されて元に戻るのですが、メラニンがたくさん作られ続け、そして排出されず滞った状態がシミになります。

「メラノサイトが表皮からの指令を受け取る際にアンテナとなるのが、MC1R※1です。ここは信号を受け取るところなので、MC1Rがうまく作動しないとメラニンを作れなくなったり、逆に作動しすぎてメラニンを作りやすくなったりするなどの異常が起こります」とポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターの本川智紀研究員は話します。

※1:Melanocortin 1 receptorの略

ヒトを構成する約2万個の遺伝子のひとつであるMC1R遺伝子。MC1R遺伝子には同じ人種のなかでも様々なタイプが存在し、髪や肌の特徴との関係が知られています。例えばコーカソイド※2で赤毛の人はシミが多く、MC1R遺伝子はある特定のタイプであることがわかっています。そこで、髪色のように特徴的な個体差がつきにくい日本人にも複数のタイプがあるのかもしれない、それがシミのできやすさと関係しているのでは、という着想につながり、本川さんのMC1R遺伝子検証がスタートします。

※2:白色人種、ヨーロッパ人種とも呼ばれる三大人種のひとつ

「MC1R遺伝子はアミノ酸をコードする部分とそれを調整する部分、合計約1500の塩基配列※3から成っています。そこから1つずつ調べて違いを探さなくてはなりませんが、顕微鏡でも確認できないほど小さいものなので、まずMC1R遺伝子をPCRという方法を使って増幅し、検出できる量まで増やします。そうして増やしてから、一つひとつの塩基を機械で読み取っていくことで配列の異なる部分をあぶり出すことができます」と本川さん。

※3:遺伝子(DNA)を構成する塩基(A:アデニン、T:チミン、C:シトシン、G:グアニン)の組み合わせ
日本人(ポーラ社員)244人におけるMC1R遺伝子の配列をPCRで解析した結果が上記の図表。163番目のアミノ酸をコードする塩基の相違によって、比較的シミができにくい「通常型」のMC1Rとシミができやすい「シミ型」のMC1Rに分類できることがわかりました。なお私たちは、遺伝子を両親それぞれから1つずつ受け継ぐ(合計2つ持つ)ので、2つともシミ型(6.6%)、2つとも通常型(60.7%)、シミ型と通常型をひとつずつ持つ混合型(32.8%)という3パターンが存在するということになります。

人類の分岐の歴史とシミ型遺伝子の関係

日本人のMC1R遺伝子は通常型とシミ型に分かれるという事実とともに、とあるユニークな特徴を持つこともわかりました。人と人を遺伝子の塩基配列レベルで比較したとき、同じ日本人同士であれば、MC1Rくらいの大きさの遺伝子では通常、他人と1、2カ所しか配列上の違いはありません。しかし日本人の通常型とシミ型では4カ所も配列が異なっていたのです。これは大変大きな違いであり、人種が変わるほどの差といっても過言ではありません。また、4カ所も違うにもかかわらず、1〜3カ所異なるなどの中間的な配列パターンがほとんどないことから、日本の中で徐々に枝分かれしたのではなく、はじめから異なるMC1R遺伝子を持つ2種の人種がそれぞれ日本に流入したのかもしれない、という新たな仮説が生まれました。
人類の進化の歴史をたどると、およそ20万年前にアフリカで人類の祖先ホモ・サピエンスが誕生し、その後コーカソイド、さらにその後モンゴロイド*4が生まれたとされています。遺伝子研究とは別に霊長類の進化についても研究を重ねていた本川さんは「人種ごとのMC1Rのタイプを調べると、シミ型と通常型の遺伝子に何か特徴があるかもしれない」と考え、データベースや論文を調査。そこで見えてきたのは、MC1Rはもともと「シミ型」が存在し、時代とともに「通常型」が増えていったこと、そしてその分岐時期は数万年前に遡るということでした。

人類の進化の歴史をたどると、およそ20万年前にアフリカで人類の祖先ホモ・サピエンスが誕生し、その後コーカソイド、さらにその後モンゴロイド※4が生まれたとされています。遺伝子研究とは別に霊長類の進化についても研究を重ねていた本川さんは「人種ごとのMC1Rのタイプを調べると、シミ型と通常型の遺伝子に何か特徴があるかもしれない」と考え、データベースや論文を調査。そこで見えてきたのは、MC1Rはもともと「シミ型」が存在し、時代とともに「通常型」が増えていったこと、そしてその分岐時期は数万年前に遡るということでした。

※4:黄色人種、アジア人種とも呼ばれる世界三大人種のひとつ
通常型とシミ型のMC1R遺伝子は大きく異なること、さらに現代の日本人は通常型のMC1R遺伝子が多いことも判明しましたが、人類の進化から考えてみると元々はシミ型の遺伝子が発端です。それでは、なぜ日本には通常型の人間が多いのでしょうか。そこで関連してくるのが、日本人のMC1R解析検証の際にとっていたもうひとつのデータです。実は出身地方によって、通常型とシミ型の分布に特徴が生じていたのです。
上の地図からも、シミ型は九州と東北・北海道エリアに多いことがわかります。そもそも日本人という人種は、約5万年前に琉球や北海道から陸伝いで流入してきてそのまま南端・北端に多く分布したとされる縄文人(コーカソイド系)と、約3000年前に朝鮮半島から船で渡来してきて日本列島に広く勢力を拡大していったとされる弥生人(モンゴロイド系)によって構成されてきました。アイヌの人々や沖縄諸島の人々に彫りが深い人が多いのは、縄文人の遺伝子を強く受け継いでいるからだといわれています。そうした日本列島における縄文人遺伝子の分布特性が、シミ型遺伝子の分布特性にぴったり一致することに気づいた本川さんは、「縄文人にはシミ型が多い」という仮説を立てます。
この仮説を検証するため、本川さんは国立科学博物館の協力のもと、縄文人、アイヌ、および本土日本人のMC1R遺伝子を比較解析。結果、やはり仮説通り、縄文人においてはシミ型が100%を占めたという結果が得られました。

「縄文スコア」が高いほどシミリスクも増加する

現代人の私たちも、縄文人と弥生人のそれぞれから遺伝子を受け継いでいます。そこで、縄文人の身体的特徴を多く受け継いでいる人ほどシミになりやすい可能性があるのではないか、という考えのもと次のような検証が行われました。
耳垢や髪の毛の性質など身体的な特徴と、鼻骨の高さや鼻下の長さなど骨格の特徴をそれぞれ4つの項目に分類。該当箇所が増えていくほど「縄文スコア」が上がり、伴ってシミが増えていく明確な傾向が示されました。その結果、スコアが0と8(満点)の人のあいだには年齢にして18〜19歳程度、シミのリスクに違いがあることも判明しました。
こうして個人差(遺伝子)によるシミ発生リスクがわかるようになったいま、これから期待されるのは私たちにどのような恩恵があるのかということ。「今はまだ個人がMC1Rの遺伝子タイプを調べるのはハードルが高いですが、もしこれが一般的になったら、遺伝子タイプに合った商品を開発していくことが可能になるでしょう」と本川さんは語ります。
商品化はもう少し先の話ですが、縄文スコアで自分のシミのできやすさが確認できれば、もともとシミになりやすいと感じていた人にとっては、今までのケアで良かったのか答え合わせをすることができます。そして将来どうなっていくのか、予測してみてはいかがでしょうか。
出典
「Effect of Val92Met and Arg163Gln variants of the MC1R gene on freckles and solar lentigines in Japanese(日本人におけるシミ型遺伝子の発見)」(Pigment Cell Res. 20(2):140-3. 2007年)


「Polymorphism Patterns in the Promoter Region of the MC1R Gene Are Associated with Development of Freckles and Solar Lentigines(日本人のシミ型遺伝子の特徴)」(J Invest Dermatol. 128(6):1588-91. 2008年)
Illustrations by SHINCHI Kenro
Text by ISHIZUMI Yuka
Edit by NARAHARA Hayato
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