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脳科学から考えるテクノロジーと、孤独との新しい向き合いかた

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コロナウイルスによるパンデミックのために、世界中ではいまだ大勢の人たちが隔離や自粛を余儀なくされる状態が続いています。しかし人と人との距離をとるというソーシャル・ディスタンシングの戦略は、人類進化の基盤とも言える、社会とつながりたいという私たちの欲求とは相反するものではないでしょうか。

 

社会的な交流が突然失われたことで、孤独を感じやすくなっていた人も多いかもしれません。通常の暮らしでは、つらい時には抱擁やふれあいこそが励ましになりますが、それすらも得られない日々が続いていたのです。そうした逆境に向き合おうと、ここ数か月はオンラインでの活動を通じて、人と人との間にある距離を縮めようとする動きが多く見られました。たとえばNetflix Partyやオンラインゲーム、ビデオチャットを使ったダンスパーティーなどがいくつも開催されていました。では、こうした新しいテクノロジーは、私たちを孤独から救ってくれるのでしょうか?

 

孤独な脳

私たち人間は他者と充実した時間を過ごした時に、本質的な喜びを感じられるようです。脳のスキャンデータに基づく研究の結果、人は金銭的および社会的報酬を得られることで、モチベーションに大きく関与する腹側線条体を含む脳の皮質下領域が活発に働くことがわかりました。しかし反対に、人が孤独を感じて誰かに拒否されていると思う時には、ストレスやネガティブ思考と深く結びつく脳領域が活性化しているそうなのです。

 

このように私たちが人とのつながりを求めるのは、社会的交流を確立し、維持することで人類が生き延びてきたという進化過程に理由があるのかもしれません。人は孤独を感じている時、物事をネガティブに捉えやすくなり、不安のために他者の意図をあれこれ勘ぐってしまうという傾向があります。それが度を越してしまうと、より深い孤独を感じることになり、悪循環が生まれる可能性があるでしょう。

 

しかし社会的な交流を求める度合いは、人によっても異なります。外交的なタイプの人は基本的に人と共に活動することを好み、幅広い人脈を持っていることが多く、調査の結果では比較的孤独を感じづらいことがわかっています。一方、神経症的傾向の数値が高い人は、社会的な断絶を感じやすいという報告もあります。

 

孤独感はこれまでも、心身の健康に深刻な影響を与え、また死亡原因となっていることも明らかにされてきました。

 

では、私たちは孤独や社会的交流の断絶とどのように向き合えば良いのでしょうか? 孤独感を緩和する方法について分析したある研究では、孤独が生み出す歪んだ思考について言及されています。人は孤独を感じている際、「自分の話を聞きたいと思う人なんていない」といったネガティブな思考を自動的に抱いてしまうことがあります。そうした思考をまず認識し、それが事実ではなく仮説にすぎないのだと、見方を転換することが助けになることもあるでしょう。

 

また既存の医学文献情報をまとめた最近の研究では、孤独への対処戦略を絞ることが効果をもたらすという発見をしています。その研究では、孤独感を軽減するためにサポートグループに参加するといったアプローチが特に効果的だとわかっている一方、人間関係への期待を下げるといった感情ベースの戦略では同等の効果が見られなかったとしています。

 

テクノロジーがもたらすもの

ソーシャルメディアは、一般的な議論のなかでは非難の対象になることがあります。とはいえ自粛生活を送っている(または送っていた)人の多くは、オンラインの社交ツールを頼りにしていることもまた事実でしょう。ただ、FacebookやInstagram、そしてTwitterといった簡易にやりとりができるソーシャルプラットフォームには、笑顔やジェスチャー、視線といった非言語がもたらす手がかりや合図を得ることができないといった大きな特徴があります。しかし私たちはそうした手がかりにより、交流の際に相手がどのような口調や文脈でメッセージを発しているのかを判断することができるのです。こうした情報が欠けていることで、他者からの友好的な合図を受け取りづらくなっている可能性があります。

 

このようにオンラインツールは自粛期間中には確かに助けになりますが、生身の人間がそこにいるというリアリティは失われたままです。そのようななか、オンラインでのコミュニケーションから得られる利点を高める方法を模索する動きもあります。ある研究では、ビデオチャットで交流する被験者2人にAR(拡張現実)機能を利用してもらったところ、相手の存在をより強く感じ、深い交流を持てたと報告しています。また他者と親密な関係を築く場合には、一緒に何かを経験することが有効に働くこともわかってきました。たとえばバーチャルなクイズ大会やダンスパーティーなどは、人と実際に会えない時期には特に役立つのではないかと思います。

 

人との社交を目的に作られたロボットも、身体的な存在感があるために、人の孤独を癒す可能性があることがわかっています。アザラシの赤ちゃん型ロボットParoを使ったランダム化比較試験を行ったところ、養護施設の居住者のなかでさびしさを感じていた人たちはParoと交流することで孤独感が軽減したという報告が出ています。

 

筆者の研究所でも、人間が機械と社会的な交流を築く能力に対し、ロボット的な特性および行動がどのような影響を与えるのかを研究しています。たとえば最新の研究では、被験者たちは人間型ロボットと会話した際、人間と会話するのと同じくらい集中できたことがわかっています。一方AlexaやSiriのようなボイスアシスタントではそこまでの関係は築けなかったそうです。

 

運動中の脳活動を計測できるモバイル脳イメージング技術の新たな発展は、ロボットの社交的洗練度の向上と連動して、人々が現実世界でロボットとどのような社会的交流を構築し、維持していくのかを観察する機会を与えてくれます。

 

社交ロボットが一般にも普及するのは遠い未来の話のようにも思えますが、すでに多くのロボットたちが工場から出荷され、家庭やスーパーマーケット、また病院で活動しています。今回のコロナ危機においては、スーパーで買物客に健康を守るためのルールを伝えるといったアシスタント業務をこなすロボットもいます。

 

すべての人がこうしたロボットと交流を持つまでには、確かにもう少し時間がかかりそうです。現状では、オンラインで家族や友人と一緒に活動を楽しむことが、パンデミック下での孤独と向き合う際の癒しになるでしょう。そうするうちに、人と人が不安なくリアルなふれあいを持てる日がまた戻ってくると思いますよ。

 

この記事の初出はThe Conversationです。

この文書は著作権の対象です。個人的な学習や研究目的以外での使用や、書面による許可なしでの複製はいかなる部分でも禁止されています。本記事の内容は情報提供のみを目的として発表されています。

 

 

この記事は、Medical Xpressが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、legal@newscred.comにお願いいたします。

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