Culture  

連載 CREATOR'S EYE 第20回
料理人・山本千織が見つけた、“制約”を楽しむ食と暮らし

“いま”の時代や文化をつくる人たちが、出会えてよかったモノ・コトを発信するコラム「CREATOR'S EYE」。今回登場するのは、「奇跡の弁当」「幻のロケ弁」と話題を呼ぶユニークな弁当を生み出す料理人・山本千織。10品目を超えるおかずが仕切りなく収まる彩り豊かな創作弁当「チオベン」、そこには、暮らしのなかで「制約を楽しむためのヒント」が盛り込まれていました。
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偶然に編み出された「仕切りのない弁当」

初めてお店のキッチンに立ってから20年近く、作ったものを「目の前ですぐ食べてもらう」ことが日常だった。それがひょんなことから弁当作りが生業になり、作ったものを時間が経ってから「目の届かないところで食べてもらう」ようになった。
実は、弁当屋にはなろうと思ってなったわけではない。バーを間借りしていた時に、弁当箱を皿代わりにして出していたのだ。蓋をして弁当として持っていく人もいれば、詰めたてをその場で食べてしまう人も少なくなかった。自分もワンプレート料理を作る感覚でいた気がする。いまでこそ「仕切りがない弁当」と言われることが多いけど、当時は皿に盛っているつもりで詰めていたから、仕切りがあるはずもない。
その後、撮影現場の弁当としての需要が増えていくのだが、仕事を続けていくうちに、飲食店をやっていた時に提供していた料理と同じものを作っていたら駄目なのでは!?ということに気づき始めてくる(遅い)。バーで出していた時のように弁当箱に入ってはいるけど、その場で食べてもらっていたのと同じでいいわけがない(遅い)! ただ今さら、この仕切りを使わずびっちり詰まっているかたちを変えることができない……。

制約があるからこそ、オリジナルなアイデアが生まれてくる

最初に詰めのルールを作った。主菜は肉と魚を1つずつ入れる。副菜は細かく10個くらい。それぞれに特徴や役割を決め、サブメンバーのバリエーションを用意する。ここまでは誰でも思いつくが、その後にぶち当たるのが弁当ならではの「やってはいけないこと」。冒頭でもお話しした通り、弁当は出来立てを食べてもらえない。時間が経ってでもおいしいと思うもの、冷めても成り立つもの、汁気がないもの、その上うちは成り行きで、仕切りを使わないで詰めていけるものが加わる。そして、弁当はやはり箱ひとつで完成させたい。
いざいろいろな制限を考えながらすべてのリレーションを成り立たせると、どう作っていけば良いか、おのずとわかってくる。肉を揚げているなら魚は揚げていないもの、魚に酢を使っているなら肉には酢を使わない、メインにスパイスを使ったなら副菜にはスパイスを使わない、もしくはスパイスを使ってイメージを寄せる、など、相互の関係を考えていく。コロッケや春巻のようにドライな仕上げで終わっているものの隣に、煮物などのウエットなものは詰められない。そんな時は、なるべくドライなもの同士を意識して近くに置いたり、汁の移りがないように間に葉をかませたりする。
すべてを何もないところから考えるとなかなか答えは見つけづらい。制限を考えながら個々のキャラクターを見てリレーションを成り立たせていくと、答えは自然に出てきて良い結果にたどり着く。それは決してその場しのぎの抜け道ではなく、「良いイメージ」に後押しされたアイデアであるはずだと思う。
まさか2020年の夏がこんなことになっちゃって……と思うけど、コロナという新しい制限のなかで、スタッフは自転車を買って出勤し始め、違うスタッフは老齢のお母さんの畑を手伝いだした。そして千葉に住む母は、SNSの文字打ちがびっくりするくらい上手くなった。自分と隣り合わせにいる人たちは、みんな変化した生活を粛々と、楽しそうに受け入れている。私もそうありたいなと、隣り合わせになったおかずを見て思った。
山本千織(やまもと・ちおり)
Profile/料理人。chioben主宰。代々木上原にアトリエを構え、撮影現場を中心に弁当の仕出し、ケータリングを行っている。月に1回、神宮前ユトレヒトにて弁当の販売「monthly chioben」開催。 著書に『チオベン 見たことない味チオベンのお弁当』(マガジンハウス)がある。
https://www.instagram.com/chiobenfc/
Text & Photography by YAMAMOTO Chiori
Edit by NARAHARA Hayato
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