Culture  

連載 ソウルの地下食堂で円熟する、真の“ソウル・フード”―旅する料理人とおいしい話 vol.7

「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに、世界中を旅しながら美食を追い求める料理家・山田英季さん。世界各国を渡り歩いてきた山田さんが旅先で出会った、おいしくて美しい食べ物にまつわるストーリーと再現レシピをお届け。第7回は、2018年末に訪れた韓国・ソウルにある京東市場、その地下の食堂街で食べるピビンバのお話。「食の国」の家庭グルメ、おうちで楽しむ空想旅行のおともにしてみては。
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料理人にとっての“ワンダーランド”

平日に韓国に来ると朝が早い。それは、すべての食が集う市場が開くからだ。市場には、食材はもちろんだけど、屋台や食堂といった韓国の生活を支えてきた食文化が詰まっている。そして僕はまた、早起きをしてソウルの東に位置する「京東市場(キョンドンシジャン)」に向かうのだ。
最寄駅の清涼里(チョンニャンニ)は、あまり観光客を見かけない町。その代わりと言ってはなんだが、地元の人たちで賑わいをみせ、韓国らしさの一端を感じることができる。駅を降りるとすぐに露店が軒を連ね、京東市場の前にある「薬令市場(ヤンリョンシジャン)」が現れる。ここは漢方の市場で、乾燥した植物の根っこや樹皮など、体に良さそうな匂いとともに、異国感たっぷりの雰囲気を味わうことができる。露店では、漢方を煮出すための麻の巾着袋が売られていて、これがなかなかかわいい。時折購入して、友だちへのお土産袋などに使っている。
道なりに歩き進めること10分。漢方にかわって新鮮な野菜や果物、魚や肉が露店に並ぶ。気がつくとそこはもう京東市場だ。戦後の1960年ごろ、人々が物を売り始めたのがきっかけで出来たこの市場は、とにかく広い。隅々まで見ようと思ったらとても一日では周りきれないほど。僕はここを何度も訪れているのに、行ったことのないエリアがまだまだある。市場の大半は、様々な食べ物で埋めつくされている。僕にとってこの場所は、夢の国ディズニーランドと同義なのだ。

食材の宝庫をすり抜けてたどり着く、至極のローカルフード

露店を抜けた広場には、大きめの精肉店や、妖精のようなおばちゃんが路上でにんにくを売るお店、見るからに辛そうなキムチのお店が並んでいる。
屋根付きのエリアに入ると、暗がりのなかに電球が灯り、あちらこちらで野菜や乾物などが売られている。そして、僕が京東市場を訪れる一番の理由が、市場の真ん中あたりにある地下の食堂街にある。
このなかの「アンドンチッ」というお店。日本でいう手打ちうどんにあたる「カルグクス」がとても有名なお店ではあるのだが、僕は決まってこの店で「ピビンバ」を注文する。お店の奥にあるキムチやナムルがあまりにおいしそうで、ピビンバなら、それらが全部食べられるのでは?と食いしん坊レーダーが反応したのがきっかけである。
お母さんの手で何万回と作られてきたであろう円熟のキムチやナムル、特製のみそがごはんの上に乗り、ダメ押しにバツグンの半熟具合の目玉焼きが添えられる。運ばれてきたら、箸(チョッカラ)とスプーン(スッカラ)を使って、混ぜていく。「ピビンバ」は「ピビダ=混ぜる」、「パップ=ごはん」という意味なのだから当然、これでもかと混ぜなければならない。お皿のなかですべての味がしっかりと混ざり合う。口に入れたらもう、笑みしか浮かばないほどおいしい。
ここでは、白菜のチヂミも注文するといい。甘くてみずみずしい白菜が、キムチやみその辛みを口のなかで優しく中和してくれるのだ。
腹ごしらえを終えたら市場に戻り、お土産に搾りたてのごま油を買う。値段をみて、高い方が韓国産のごまを使ったものなので、そちらを買うとよりおいしい。わからなかったら、「ハングクサン ジュセヨ(韓国産をください)」と言えば、おばちゃんはニッコリ笑って、瓶に詰まった搾りたてのごま油を手渡してくれるだろう。
韓国という国の食文化は、あまり一人でごはんを食べない。友だちと会えば「ごはん食べた?」と挨拶がわりに聞くほど、昔から「食」が重要視されている。
食の国、韓国。まだまだ、出会っていないおいしい物がありそうだ。
【ピビンバの作り方】
材料:2人分 調理時間:35分

韓国そぼろ(作りやすい分量)
合挽肉 200g
サラダ油 小さじ1

A
コチュジャン 大さじ1と1/2
醤油 大さじ1/2
砂糖 大さじ1/2
酒 大さじ2
おろししょうが 5g

ナムル(作りやすい分量)
もやし 1/2袋
にんじん 1/3本
ほうれん草 1袋

B
塩 ひとつまみ
醤油 小さじ1
ごま油 大さじ2

その他の材料
韓国海苔 適宜
ごま 小さじ1/2
キムチ 40g
目玉焼き 2個
ごはん 2膳分

<作り方>

韓国そぼろを作る(調理時間:10分)。

①フライパンにサラダ油を温め、合挽肉を入れて炒める。
②小さめのボウルで混ぜておいたAを加えて、汁気がなくなるまで炒め煮にする。
合わせ野菜のナムルを作る。

③にんじんは、皮をむいて千切りにする。ほうれん草は、塩茹でして冷水にとり、よく絞って4cm幅に切る。もやしは茹でて水気を切る。
④ボウルに③を入れて、Bを入れて和える。
ピビンバを作る。

⑤器にごはんを盛り付け、そぼろ、キムチ、ナムル、ごま、韓国海苔、目玉焼きをのせ、分量外のコチュジャンを添え、ごま油を回しかける。
※そぼろやナムルは、多めに作っているので、お好みの量を盛り付けてください。
山田英季(やまだ・ひですえ)
Profile/料理家。フレンチ、イタリアン、和食などのレストランでシェフを歴任後2015年に〈and recipe〉を立ち上げ、「ごはんと旅は人をつなぐ」をテーマに活動中。著書に『にんじん、たまねぎ、じゃがいもレシピ』(光文社)、『かけ焼きおかず かけて焼くだけ!至極カンタン!アツアツ「オーブン旨レシピ」』(グラフィック社)など。
noteでレシピを公開中。
「Reizoko ni ALMONDE-冷蔵庫にあるもんで-」
https://note.com/andrecipe1102

http://andrecipe.tokyo/
https://www.instagram.com/andrecipe/
Text & Photography by YAMADA Hidesue
Edit by NARAHARA Hayato
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