Culture  

フラワーアーティスト・東信が花の生命をもって伝えたいこと 〜前編〜

オートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS(ジャルダン・デ・フルール)」を運営する傍ら、世界各地で花にまつわるアートプロジェクトを手がけるフラワーアーティストの東信(あずま・まこと)さん。これまで幾度となくポーラ B.Aシリーズのアートワークを手がけ、新たに発表されたB.A第6世代では、花の内に宿る生命力を表現した作品を発表しました。こうした多岐にわたる活動を通して、東さんが社会に伝えていきたいこととは。前後編にわたってお届けします。
share

20年前に生まれた持続可能な花屋のかたち

-東さんは、世界各地で表現活動を展開する一方、花屋「JARDINS des FLEURS(ジャルダン・デ・フルール)」も手がけられ、さまざまなかたちで花の魅力を伝えてらっしゃいます。花を通して表現し、お客さんや見る人と向き合うことになったのには、どのような背景があったのでしょうか?
これという決定的なきっかけはありませんが、もともと福岡県の福津市という片田舎で生まれ育ったので、小さい頃から自然や花が身近にあったことは一つ理由かもしれません。でも当時、花は母親が玄関に飾るものという程度の印象でした。この世界に入ってから、人はこんなにも花を必要としているんだと気づかされましたね。
-オートクチュールの花屋を作ろうと思い立ったきっかけは何だったのでしょうか?
僕の花屋の始まりは、20年ほど前に働いたスーパーの小売の花屋さんです。そこでたくさんの在庫抱え、花が開いてしまったら全部捨ててしまうことに違和感を覚えました。従来の花屋のスタイルを否定するわけではありませんが、もっと別のやり方もあるのではないかと思い、花の生命と向き合っていくことがこれからの花屋の使命だと感じました。
そこから銀座に「JARDINS des FLEURS」を構えたのが2002年(現在の店舗は南青山)。“花のない花屋”を始めました。そのときからずっと市場で大量に花を買うことはせず、お客さんからオーダー受けてから、信頼できる仲卸さんから必要な分だけ正当な金額で購入し、束ねるスタイルをとっています。ですが、このやり方は手間もコストもかかるので、最初は全然受け入れてもらえませんでした。自分がつくる作品の価値を上げていくことでだんだんと受け入れられるようになり、今では近しいスタイルの花屋も少しずつ増えていますね。
-今でこそさまざまな分野でサステナビリティという考え方が浸透していますが、大量生産・大量消費が当たり前だった20年近く前からそういった取り組みを自然に行っていたんですね。
花屋は生きものを扱っているし、世界中から輸出入しているので、物流にもそれなりのエネルギーを使います。だからこそ、その生命に対して真摯にやっていかなければいけないと思い、このスタイルに。お金のためだけに花を束ねるのではなく、生きものを愛でる心や、お客さんに寄り添う心を軸にしてきました。

世界中に種をまき、次世代へ繋ぐ活動を

-花屋を運営する傍ら、世界各地で「フラワーショップ希望」や「BOTANICAL SCULPTURE」などの活動も行っていらっしゃいます。その内容について、あらためて教えていただけますか。
「フラワーショップ希望」は人々に希望を与えたい、花に触れてほしいという気持ちから始めた、世界各地で花を配る取り組みです。活動を通して、僕らも「花とはどんな存在なのか」を学ばせてもらっているなと思っています。同時に、花屋として花を使ったコミュニケーションがどこまで深みを持てるかを探る試みでもあるんです。
ブラジルでの「フラワーショップ希望」の様子。
「BOTANICAL SCULPTURE」は、僕が花を生けたいと思う場所に赴いて、現地の花を調達し、花の彫刻作品を作ります。作品の展示後は使われた花を現地の人に配るので「フラワーショップ希望」とドッキングしたようなかたちですね。
最近の活動では、子どもたちに向けた花にまつわるアニメーション「Botanical Animation」も制作しています。
北海道・富良野で制作された「Botanical Sculpture」。
「Botanical Animation」より。
-そうした活動を行おうと思ったきっかけはあるのでしょうか?
花屋って、すごく感謝される職業なんです。お金をもらって作っているのに、お礼を言ってもらえたり、花を見て泣いてくれる人もいる。そういう商売ってなかなかないじゃないですか。人の心に寄り添う仕事だからこそ、当たり前に社会に貢献できるようにしたいと思ったんです。だから、花屋もこうしたプロジェクトも、すべてがCSR活動ではないかと思っています。
さまざまな企業と一緒に仕事をして生まれた収益を僕らだけで使うのではなく、本当の意味で裾野を広げいくことに使いたい。たくさん店舗をつくって、たくさんの人が花を買えるようになるのもいいと思います。けれども、僕は花屋がない地域の人にも花に興味を持ってもらいたいし、僕が花を届けた子たちがいつか大人になって、そのときの記憶を思い返してくれたら、それが何かのきっかけになって、ものすごく大きな動きにもなり得るんじゃないかと思うんです。
-世界中に種をまく活動なんですね。
まさにそうです。花をもらった人って、必ず誰かに渡すじゃないですか。僕の活動で世界を変えてやろうとかそんな大それたことは望まないけど、花をもらった体験が、いつか何かに繋がっていけばいいなと思っています。
ただ、僕たちはそのことを「社会のためにやっている」と自ら積極的に公言することはありません。黙って淡々とやり続けていくだけです。もともとすべての活動を同じ目的に向かってやっているので、それぞれの取り組みが、どの振り幅でやっているかの違いでしかないんです。

サステナブルな花と花屋と贈り手の関係

-さまざまな活動を行う中で、東さんにとって依頼主である贈り手はどのような存在でしょうか?
花と、お客さん(贈り手)と我々作り手は三角関係だと思っていて、一番バランスがとれている正三角形が僕の理想です。花自体すごく良いもので、作り手の技術も高く、お客さんの気持ちも束ねる花にちゃんと乗せられている。その正三角形が大きければ大きいほど、お客さんの満足度が高いわけだから、できるだけ大きな正三角形を描けるようにしたいんです。
そのためにやっているのは、基本的に僕は作ることだけに専念するということ。実は完全な分業制にしているんです。僕は直接オーダーを受けないし、市場に仕入れにも行きません。担当チーム各自に任せることで、それぞれの感性が最大限働き、一人ひとりがプロ意識と責任感を持って高度に成長していく。スタッフのポジションをローテーションしながら、それぞれの役割に責任を持ってやってもらっています。
-花屋の仕組み自体もサステナブルな形をつくっているのですね。
社内の体制はもちろん、お客さんの気持ちにしっかりと寄り添える環境をつくるのは本当に大切です。複雑な色を組み合わせるオーダーであっても作品にまとめるのが僕らの仕事ですし、夏でも冬の花がほしいとリクエストをもらったときに備えて、常に必要な花を入手できるようにしています。幸い、日本は北海道から沖縄まで気候のバリエーションがあり、植生も豊か。常に全国にネットワークを張っています。アーティストなので感覚でやっていると思われがちですが、地に足ついた商売をしているんですよ。
-見えない部分でのさまざまな配慮があって出来上がっている作品について、受け取った方々に感じてほしいことはありますか?
受け取り方は自由でいいと思いますが、何か心に引っかかるものがあれば嬉しいですね。もちろん感動したり、喜んでもらえるのが一番嬉しいですが、何も感じられないよりは批判を受けたほうがいいなと。
美術館に行って展示されている作品から想像を膨らませる人がいるように、僕は花の色や造形からインスピレーションを受けて、どう綺麗に見せよう、どうアレンジして組み合わせよう、ということを発想しています。そうやって花の生命を使って作品を束ねるわけだから、何かを感じ取ってもらうことで生命をまっとうさせないと、無駄にしていることになってしまう。それは花屋でも、ポーラのB.Aのアートワークでも、あらゆる活動において意識していることです。

社会の枠組みを解放する、これからの「アート」とは

-東さんは「フラワーアーティスト」と呼ばれることが多いと思いますが、これまで「アート」というと、美術館に展示されているような、いわゆる美術作品だという感覚を持っている人も多かったと思います。
「アート」が何なのかは時代とともに変わってくるものだし、結局わかりやすさのためにカテゴライズしているだけの話なのかもしれないですよね。僕も「アーティスト」と紹介されていますが、自分が「アートをしている」とは思っていません。でも、作品をつくっているとは思っていて。その考えがあるから、アーティストでも、花屋でも、呼ばれ方はなんでもいいですね。
-今、東さんのように肩書や枠組みにとらわれない考え方、生き方をする人が増えてきているように感じます。
それは「アーティスト」だからできる特別なことではないと思っています。誰しもがちょっとしたスイッチがあれば叶えられることで、そのスイッチは皆が誰しも 持っているのかもしれないですね。僕は年代的にも、既成概念を壊して新しい価値観をつくるパンクに感化されてきました。
スイッチを押すことに加えてもう一つ大事だと思うのは、世間を納得させていくために、きちんとその道で経験を積むこと。自分が何者か自由に名乗ることができるのはすごく良い時代だと思いますが、その道をやり通すには確固たるものを見つける必要があると思います。
僕の場合、花とじっくり向き合って「生命」としてとらえ、作品を通して伝え続けてきたからこそ、世の中に受け入れてもらえたんだと思います。なぜやりたいのか、やりたいことに対してどう努力しているのか。それをちゃんと問えるようになって初めて、人に伝わるものになるのではないでしょうか。
後編では、東さんがPOLAと作ったB.A第6世代のアートワークや、社会に対して「アート」がどのような影響を与えられるかについて伺います。
AMKK(東 信、花樹研究所)https://azumamakoto.com/
B.A ブランドサイト https://www.pola.co.jp/brand/ba/
Text by Yukari Yamada
Photo by Kelly Liu
Edit by Natsuki Tokuyama
share