Culture  

連載 CREATOR'S EYE 第22回 
ホテルプロデューサー・龍崎翔子のライフスタイルを形成した“チルアウト感覚”

“いま”の時代や文化をつくる人たちが、出会えてよかったモノ・コトを発信するコラム「CREATOR'S EYE」。今回登場するのは、カルチャーを通じてゲスト同士の出会いと交流を誘発する、「チルアウト」をコンセプトにしたソーシャルホテル『HOTEL SHE,』プロデューサーの龍崎翔子さん。第一線のビジネスパーソンとして多くのメディアを賑わせる彼女の感性を育んだ、仲間とあてどなく過ごした大学生活。その記憶から紐解く「心地良い陶酔を志向する生き方」を綴ります。
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自然体でいることが、自然なつながりを生んでいく

なんだか文化人のような扱いをしていただくことが稀にあるのだが、自分ではあまりカルチャーに精通していると思わない。大学時代も友だちがHIPHOPに傾倒していくのを尻目に、私は相変わらず宇多田ヒカルを聴いて過ごしていた。でも、いまの私をつくっているのは間違いなく、あのとき駒場キャンパスの屋上でスピーカーからビートを流し、ビール片手にサイファーする友だちを眺めていた時間だったと思う。
若くして死んだグラフィティアーティストの名前を冠したそのイベサー(といっても入会も退会も受け付けない、ただのイツメンの界隈)は、大学に馴染めず、浪人やら留年やらを繰り返しながら渋谷を徘徊する人たちの吹き溜まりだった。どんどんキャンパスの端に追いやられていく喫煙所で、肩身を狭くしながら過ごしていた。
そして気づけば学食のテラスに集まり、ほとんどの時間、音楽をかけながらダラダラして過ごした。テーブルに突っ伏してスマホをいじる私の頭上をさらさらと風が流れて、木漏れ日が揺らめいた。友だちは今週の『フリースタイルダンジョン』がどうとか、鎮座DOPENESSのフロウがどうとかいう話をしていて、私はそれを上の空で聞いて過ごしていた。
みんな劣等生だったから、“楽単”があると聞きつければこぞって同じ授業をとる。そして同じ算段の学生たちで溢れかえる講義室に座る場所がないとわかれば、今度は校舎の屋上に忍び込んで煙草を吸い、そうして日が暮れると友だちは青山や表参道のクラブに遊びに行き、私は彼氏と下北の古着屋を巡ってオオゼキに寄り、木造2階建てのアパートに帰っていった。
在学当時、東大赤門での写真

“リラックス”とは異なる、気怠く陶酔する心地良さ

留学とかインターンとか就活とか交流会とか、そういうキラキラした世界と一線を引きながら、99%の気怠さと1%の刺激を仲間内で共有することが心地良かった。渋谷を歩けば友だちとすれ違い、嫌なことがあれば美容室に行ってブリーチした。駒場の思い出はいつだって柔らかな陽射しできらめいている。
クリスマスの夜、彼氏が私にくれたプレゼントはアナログレコードプレーヤーだった。レコードのリバイバルブームがくる少し前、2016年のことだった。仲間のほとんどがDJかMCかVJだったというのもあってか、友だちに相談してすすめられたのだという。彼氏はDJの友だちと渋谷のレコ屋でAviciiのLPをディグり出し、レコードプレーヤーと一緒に贈ってくれた。
それまで憧れはあれど、欲しいと思えるほど音楽の知識もなかった。でもレコードプレーヤーが自分の占有空間にあることで、レコードをかけながら眠りに落ち、朝日のなかでコーヒーを飲みながら温かい音色に耳を傾けるようになった。それまで素通りしていたレコ屋にも立ち寄るようになった。思い立ってDJ機材を買い込み、友人のイベントで回させてもらうようになった。体験したからこそ生じた生活の変化を、ホテルでも再現できるんじゃないか。そんな思いから「HOTEL SHE, OSAKA」の全客室にレコードプレーヤーが置かれたのだった。
DJを覚えたてでイベントに出演したとき
やがて仲間は歳を重ね、キャンパスも変わり、学食に溜まることも授業を抜け出して遊ぶこともなくなった。でもいまでも私の心のなかでは、誰かのJBLのスピーカーからビートが流れていて、アメスピの香りと穏やかで気怠い時間が流れてる。
龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)
Profile/ホテルプロデューサー。1996年生まれ。東京大学在学中の2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立。「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ、北海道・富良野の「petit-hotel #MELON 富良野」や京都・東九条「HOTEL SHE, KYOTO」をプロデュース。その後も、アナログカルチャーをモチーフにした「HOTEL SHE, OSAKA」を大阪・弁天町で、CHILLな温泉旅館「THE RYOKAN TOKYO」を湯河原で、廃業した温泉旅館を再生した「HOTEL KUMOI」を北海道・層雲峡で、次々にオープン。人と街とカルチャーの交差点として、従来のホテルとは異なるインタラクティブなホテルづくりを目指している。
Twitter @shokoryuzaki
Instagram @shokoryuzaki
Text by RYUZAKI Shoko
Edit by NARAHARA Hayato
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