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コロナ時代の新しい趣味 瞑想的でサステナブルな手芸の世界

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手芸や手仕事には、「古風」もしくは「お上品」な趣味というイメージがずっとつきまとっていました。刺繍や編み物は、家庭的な雰囲気や女性らしさ、「丁寧な暮らし」をアピールするもので、決してクールな趣味ではないと考えていた人も多かったようです。

 

しかしInstagamやYouTubeにアップされたチュートリアル動画のおかげで、手芸は時代もののドラマで見るような裕福なご婦人や、CMに出てくるおばあちゃんの趣味にとどまるものではなくなりました。実践する人の数は増え続け、より細分化されたコミュニティづくりにも貢献しはじめています。そして2020年のパンデミックが、突如として手芸をメインストリームに押し上げることになったのです。

 

編み物や刺繍といった手芸の歴史は、世界各国にまたがる多様なもので、私たちが通常抱きがちなイメージとは大きくかけ離れています。歴史的に見れば、手芸や手仕事は伝統として女性だけがするものではなかったのです。たとえば編み物を例に出すと、17世紀から18世紀にかけては男女問わずすべての人たちがその作業を担っており、特にパリでは、男性たちがギルドに弟子入りし、6年かけて編み物マスターを目指したという事実があります。編み物の技術を労働の手段とする下層階級の人々と、趣味として楽しむ中流階級の人々に線引きがなされたのは、ヴィクトリア朝前期に入ってからです。繕い物や、防寒具を編むといった素朴な作業が、労働者階級の仕事とみなされるようになりました。

 

特定の手芸技術に対する評価や、それが誰にふさわしいかといったイメージは、時代によって複雑に変化していきます。たとえばかぎ針編みのクロシェは19世紀には「羊飼いの編み物」と呼ばれていましたが、繊細なレースが流行するようになると、クロシェはハイランクの技術として扱われるようになりました。同じように、ヴィクトリア朝時代の中流階級の女性たちは、より繊細でデコレーションにこだわった編み物を暇つぶしに楽しむようになっていきます。とはいえ、こうした手仕事はいずれも家庭で行うものと考えられていたため、結果として女性的な領域にとどまることになりました。

 

歴史的に見ても、手芸はフェミニストとしての生き方と相容れるものではありませんでした。手芸がこれまで家庭と結びつけられてきたために、女性は繕い物や手仕事を担うべきという社会的な要求を、多くのフェミニストたちは性差別的で、旧時代的なものであるとして拒否し続けたのです。手芸がはやらなくなった理由のひとつに、こうした動きがあったのも確かです。しかし実際には、手芸の技術がもはや必要とされなくなったというのが主要な原因だったようです。工業化が進み、安価なファッションや雑貨を提供する産業が彗星のごとく登場すると、自分で服や小物を作ることが時代遅れになりました。新しいものが安く買えるため、何かを修理して使う必要がなくなったのです。

 

高度にテクノロジーが発展した社会では、生活のスピードを見直す暇もなく、どんどん高速で時が流れていきます。仕事でもオフの時間でも、常にデジタル製品に気を取られ、集中力が削り取られていくような時代です。クッションにゆっくり刺繍を施す時間の余裕がある人が限られるのは、当然かもしれません。

 

しかし現在、クールなグッズを自分の手で作ってみようと、様々な人たちがこぞって手芸に再び興味を持ち始めた理由は、まさにそれを廃れさせた原因にあるようです。

 

Wear, Repair, Repurpose』の著者で、Instagramのアカウント@mindful_mendingを運営するリリー・フロップが手芸に関心を持ち始めたのは、サステナビリティを重視しており、自分の服をできるだけ長く着たいからだそうです。「大量生産や消費至上主義の反動として、縫い物が再び脚光を浴びているようです。特に服に関していえば、エシカルでサステナブル、そして透明性が担保できるブランドが未だに多くありません。ですから、自分で作った服を着ることを、心地良く感じる人が増えたのだと思います」。

 

編み物を始めたばかりというマリエル・リチャーズも、それに呼応するように話します。「ここ数年、自分でも服を作ってみたいという欲求が高まりました。縫い物からスタートしましたが、その後ボーイフレンドのお母さんに編み物を教えてもらったのです」。マリエルは編み物の繰り返し作業に惹かれたそうです。「ゲーム的な要素があるのも確かですが、編み物には他のマインドフルな作業にはない、特別な感覚があります。だって集中して編んだ後、ふと我に返ると作品ができているのですから。作ったものを、ずっと使い続けられるというのも良いですね」。

 

マリエルは、材料にこだわりすぎるとお金がかかると指摘してはいますが、既製品を買うよりもずっと安いとも話しています。「手作りを始めたおかげで、ファストファッションの服を買う必要がなくなりました。服だけではありません。雑貨や化粧用品も、どこで買うのか考えるようになったのです。数週間あれば自分で作ることができて、自粛中のお楽しみにもなるので、わざわざお金をかけて買わなくてもいいやと思うようになりました」。

 

インターネットで手芸コミュニティを検索すれば、自分のセンスに合う作品を作っている人たちがきっと見つかるでしょう。ヴィンテージ感のあるかぎ針編み作品が気になる人は、Realm DesignsGimme KayaのサイトやInstagramをチェックしてみてください。カラフルなキルトを作りたいならthe bright blooms、北欧らしいミニマルなデザインが好きならコペンハーゲンのアンネ・ヴェンツェル、そしていたずら心をくすぐる刺繍作品が話題のハンナ・ヒルロビン・ニコールのInstagramもおすすめです。

 

ロビンは主に、刺繍やタペストリー、デジタルプリントしたオリジナルの布地を使った洋服を作っています。大学時代にヨークシャーのテキスタイル産業を研究したことで、自分でもテキスタイルを中心とした作品を作り始めたそうです。「現代的なコンセプトを用いながら、伝統産業と自分がどう関わっていけるのか追求したいと思いました。作品には、私自身のアイデンティティが分かち難く反映されていると思います。ですから私にとって、作品作りは趣味以上のものなのです」。

 

他の作家たちもそうですが、ロビンは何かを行う上で、それが手軽にできるかを重視しており、刺繍は最もお金をかけずにできるアートだったと話しています。「刺繍に使うフープは5.5ポンドで手に入ります。他のアートに取り組もうとすると、もっと材料費がかかってしまいます。最終的な作品形態によっても異なりますが、テキスタイルは基本的にスタジオがなくても生産できますし、道具を揃える必要もなく、かさばらないのでスペースが必要ありません」。

 

ロビンは、人々が手芸に対して抱いているイメージをあえて否定したいとは思っていないそうです。「私の作品をフェミニスト的に捉える人もいれば、『手作り』のカテゴリーで括られることもあります。作品のメインが刺繍であるのと、いかにも女性的と思われる色を使っているからかもしれません。ですが、刺繍のモチーフに市販のお菓子のパッケージ、ナイキのスニーカーといった日常的なものを選ぶことで、そうした画一的なイメージから離れようとしています」。たとえ意図的ではなかったとしても、作り手たちがこのように境界を越えていくことで、結果的により多くの人々を手芸に取り込むことができるようになったようです。「手芸はヴィクトリア朝時代のリッチなご婦人たちの趣味と結びつけられがちですが、私自身は、労働者階級の人々になじみのある品物やメーカーの製品を作品の中に取り入れています。戦略的にそうしたわけではありません。いつも私が食べているものや、体育の授業で履くスニーカーなど、私の日常が反映されているだけです。テキスタイル作品を作りたければ、製作過程の写真やチュートリアル動画がインターネットにたくさんアップされているので、誰でもチャレンジしやすいと思いますよ」。

 

まさにロビンのような作家たちが、編み物や刺繍に「かっこよさ」を与えているのでしょう。それぞれのテクニックを惜しみなくインターネットにアップしてくれているおかげで、より多くの人が取り組めるようになったことも大きく影響していると思います。また、障がいを持つ人々の作品を集めたDisable Makersや、ロンドンのBlack Girl Knit Clubなど、多様なコミュニティも広がりつつあります。マリエルはこうした多様性こそが、手芸をおすすめしたい理由なのだと話しています。「Ravelryというウェブサイトや、#knitspo#inclusivemaker#sewcialistsといったハッシュタグを中心に、幅広いクリエーターたちによるコンテンツも充実しています。自分の好みにぴったりなグループを探したり、どんな作品が作れるのか、見にいくことができますよ」。Black Girl Knit Clubのシモーヌ・クラッジとヴィア・コランテングは、#diversknittyというハッシュタグを見たことがきっかけで、自分たちもクラブを作ろうと思ったそうです。「私たちはもともと友達で、黒人女性たちと女性クリエーターたちが集い、互いのストーリーや手芸の技術をシェアできるような、安全なスペースを作りたいと思っていました。編み物をしながらだと、自分のストーリーを人に伝える勇気が湧いてくるのです。こうした活動を通じて、手芸や服飾業界における人種問題に変化を与えたいと考えています。」

 

通常なら、辛抱強く椅子に座り、新しいスキルをじっくり学ぶなんて無理だと思う人も多かったかもしれません。しかし世界的なパンデミックにより、手軽な気晴らしを制限されるようになったことで、かつては裕福な女性たちや隠居生活者がやるものだと思われていた「古風」な趣味に、チャレンジする機会がもたらされたのです。

 

DIYファッションブランドのWool & The Gangは、アイルランドのデザイナー、ケイティ・アン・マッギガンなど、数々のクリエーターたちとコラボレーションをしています。また、ロックダウンが始まってからは売上がかなり伸びたそうです。マーケティングマネージャーのアンナ・ヴェリオ・ホワイトは、人々が手芸に再び目を向け始めた理由は、作品を作り上げることだけではないと言います。「手芸には、何かを作り出す以上の恩恵があるのです。編み物はストレスと不安を軽減するという研究結果も出ています。また、現在のような社会状況では、ステッチや刺繍などの繰り返し作業に没頭することが瞑想的に作用し、心が癒されるらしいのです。作品を完成させたという達成感だけでなく、作業に集中することで現実世界から少し距離を取ることができ、穏やかな気持ちになれるのでしょう」。

 

リリーもこれに同意しています。「家のなかに閉じこもっている時には、昔ながらの『おうち仕事』をすることが安らぎになるのかもしれません。スマートフォンに送られてくる心配なニュースから離れることができますし、たとえ出かけられなくても生産的な気持ちでいられます。自分のエネルギーを不安だけに向けずにすむのが良いですね」。

 

危機的な状況下では、どうしてもスマートフォンやパソコンの画面に集中してしまいがちですが、手を動かすという実質的な作業が救いになるのかもしれません。瞑想的な長時間の作業に没頭することでストレスが解消される可能性もあり、結果として日常をコントロールしやすくなるのではないかと思います。先が見えない毎日のなか、今この瞬間に集中し、長いスパンで取り組めるプロジェクトを持っておくことで、恐怖に取り憑かれるのを防ぐことができるでしょう。

 

手芸は今では、他に選択肢のなかった時代の気晴らしでも、女性に求められる労働でもなくなりました。縫い物をしているからといって、「伝統的な主婦像」にとらわれる必要はもうありません。コミュニケーションの手段がデジタルに制限されがちな今こそ、手芸のようにクリエイティブな活動に取り組むことで、自分の生活に根を張り、今という時間をしっかりと掴んでおくことができるのではないでしょうか。

 

それに実は、テレビを見ながらでも手を動かすことはできます。リアリティ番組を9時間見ている間にも、何かを作り上げることだってできるのです。まさに最高のお楽しみだと思いませんか?

 

 

この記事は、Refinery29のLily Fulopが執筆しNewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、legal@newscred.comにお願いいたします。

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