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宇宙との調和を目指して バイオダイナミック農法とおいしいワインの秘密

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土曜の朝10時。ロサンゼルスのハリウッドエリアでは、多くの人がラテを飲み、携帯電話で会話を楽しむ時間です。しかしニコルズキャニオンの岩だらけの丘のふもと、シラーブドウのヒョロ長い若木に囲まれた畑では、駆け出しのワイン醸造家であるリサ・クリングがワイン造りの専門家ジェフ・ドーソンと共に、牛の角の中にシリカのペーストと泥を詰め込んでいます。

 

彼らが取り組んでいるのはバイオダイナミック農法です。クリングはソムリエの資格を持ち、食を取り巻くシステムをより良いものにするための世界的な運動Slow FoodのLA支部で、ワイン委員会の委員長を務めています。彼女はオーガニックのブドウ栽培のなかでも、よりスピリチュアルな教えに基づいたメソッドを用いて、自宅の裏庭に小さなブドウ畑をこしらえたのです。この日、ドーソンはバイオダイナミック農法の秘伝を教えるためにナパから駆けつけました。彼は後からクリングが開く昼食会で、バイオダイナミックで作られたワインについての専門知識を伝える役割も担っていました。

 

バイオダイナミックは、オーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーが1920年代に残した一連の講義に基づいた農法で、アメリカを含め世界各地で普及しつつあります。ブドウ畑(またはその他の畑)をひとつの生態系とみなし、作物だけでなく、土や虫、微生物などその地域の植物相にも目を向けることを大切にします。ドーソンはこのことについて、「小宇宙は大宇宙の反映なのです」という言い方で説明しています。他のオーガニック農法と同様、バイオダイナミック農法では人工肥料や農薬を使わず、自然で健康な土壌づくりを目指しています。違いは宇宙のエネルギーに合わせて農作業を行うことです。たとえばブドウの収穫は月がある惑星の前を通過する時期に行います。またクリングとドーソンが牛の角を使って作業していたように、ホメオパシーの要領で作られた調合剤を撒くといった方法も用います。ブドウの成熟を助け、味を良くすることが目的だそうです。

 

2人がまだ作業を続けているなか、クリングの友人オクタヴィオ・べセラが、ワインテイスティング付き昼食会の準備を始めました。元シェフであるべセラは、ヨアキム・スプリシャルと共にレストランチェーンPatina Groupを立ち上げ、Palate Food + Wineというワインにフォーカスした新しいレストランとショップを開店することになっていました。この日のワイン選びを手伝ったのは、彼のパートナーの1人で、ワインディレクターでもあるスティーブ・ゴールダンです。

 

家のキッチンでべセラが本日のサイドディッシュ、ニンジンのバターソテーを作ろうと食材を洗っている間、外ではドーソンが淡いピンク色をしたシリカとブドウ畑の土、水を混ぜてペーストを作っていました。クリングは、ドーソンがナパから持ってきた牛の角(乳牛のもので、この農法を行う上で必要とされている)をチェックしています。彼女は2つのうち、よりなめらかで大きな角を選び、ドーソンと一緒にペーストを角の中に詰め込みました。そして土をその上からかぶせ、ブドウの木の間に埋めました。6か月後、クリングは角を掘り出すことになっています。そしてペーストの少量を水で希釈したものを「活性化」させるために、およそ1時間かき混ぜる作業をすることになります。そうしてできたものを、ようやく畑に撒くのだそうです。

 

ちょうど作業が終わったころ、クリングの友人たちが到着しました。ドーソンは縁の広い麦わら帽子をかぶり、ゲストたちをブドウ畑に案内しました。クリングはバイオダイナミック農法で作られたシャンパン、Larmandier-Bernier Brutを2本とグラスをいくつか用意して、夫のティムと共に彼らの後を追いかけました。ティムはNBC制作ドラマ『HEROS』の制作者兼上級プロデューサーです。べセラも熱々のコロッケと、甘い冬カボチャのプレートを運んできました。クリングはシャンパンをグラスに注ぎながら、ゴールダンと頷き合いました。「良いシャンパンにはビスケットの風味があると言われていますが、これもまさにそんな風味が感じられると思います」。

 

ゲストの1人、NBCニュースの特派員マイケル・オクウは、なぜバイオダイナミック農法を始めたのかとドーソンに尋ねました。「単純なことですよ。結果を見たからです。ブドウ畑はより健康に育ちますし、ワインもそう。深みがでるのです」とドーソンは答えています。それから一行はプールサイドに場所を移し、すでにコルクが開けられたバイオダイナミック・ワインのテイスティングを始めました。クリングとゴールダンはまず、スロヴェニアのMovia Sauvignon Blancを紹介しました。オークで20か月熟成させたこのワインは、非常に香り高く、心地良いミネラル感があります。「まさに最高の味ですね」とゴールダンが感想を述べ、それからこのワインを作ったスロヴェニアのアレス・クリスタンチッチの個性豊かなキャラクターについて説明しました。

 

べセラの料理は大皿で提供されましたが、そのうちの1つは松の実とシェリー酒漬けのスグリが添えられたウズラのグリルでした。カリフォルニアで育った彼は、かつて父親とウズラ狩りをしたことがあるそうです。「自分で食べるものを自分で育て、狩ることができるという考え方に惹かれます」。オーガニック農法に力を入れているべセラは「とはいえ、狩りにはそこまで熱中することはありませんでした」とも語っています。それから深皿にこんもりと盛り付けられた香ばしい麦とカリカリにしたパンチェッタ、柔らかくローストしたリンゴのサラダが運ばれてきました。その横には、ローストしたビーツと生クリーム、酢漬けの赤玉ねぎで作った絶妙なコンビネーションのサラダもあります。

 

次にグラスに注がれるのは、ミネラル感があり、アルザス地方のブレンドに影響を受けた、ナパのRobert Sinskey Vineyardsの白ワインです。このワインはSinskey がソノマに所有するブドウ畑で収穫した、ピノグリ、ピノブラン、リースリング、そしてゲヒュルツトラミネールを使ったワインです。テレビ俳優のリサ・カミニールは「アルザス地方のブドウ種はいことが多く、あまり好きではなかったのですが、これはピーチのようにさっぱりとして、花の香りもありますね。麦とパンチェッタのサラダにぴったりです」と話し、気に入っているようでした。

 

それから、パプリカとウルシなどのハーブ類が擦りこまれたポークテンダーロインがゲストに振る舞われました。べセラはベイルートとレバノンで働いていた時期があり、中東のサアタールというハーブミックスが大変気に入ったそうです。ポークの付け合わせには、ローストしたサツマイモとヘーゼルナッツと酢で作ったソースが添えてあります。スパイスが効いたこの料理に、クリングは胡椒の風味があり、芳香豊かなDomaine Leroy Bourgogne Rougeを選びました。「ラルー・ビーズ・ルロワはバイオダイナミック・ワインの女神とも言われているんですよ」。クリングはこのワインの作り手についてこのように説明しました。「このブルゴーニュワイン、値段はいくらだと思いますか?」

 

ゲストの1人、映画『ファインディング・ニモ』の脚本家であるデイヴ・レイノルズは ワインを一口飲んでから答えました。「ものすごく高いか、信じられないくらい安いかのどちらかでしょうね。でなければ、こんな質問はしないはずですから。少なくとも100ドルはするのでは?」

 

「惜しい、112ドルです。」

 

「いくら惜しくても、自分じゃこの素晴らしいワインを買えませんね!」とレイノルズは笑いながら言いました。

 

 

この記事は、Food & WineのJessica Strandが執筆しNewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、legal@newscred.comにお願いいたします。

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