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ミライビラボ「顔の角度で年齢が変わる? 顔の3D解析と年齢印象の関係」

論文を読み解き、美のエビデンスに触れる「ミライビラボ」。今回は「Principal component analysis of three‐dimensional face shape: Identifying shape features that change with age(邦題:顔形状の加齢変化をはかる〜主成分分析法を用いて〜)」についての論文を読み解きます。私たちは目の前の人の顔から様々な情報をキャッチしようとします。わかりやすい要素のひとつが年齢です。では人は顔のどこを見ながら年齢を判断しているのでしょうか。日常で感じた気づきから始まった年齢印象の研究のプロセスや結果などについて、ポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターの黒住元紀研究員に聞きました。
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同じ人でもシチュエーションで見え方が変わる?

ポーラ化成工業が取り組む研究は、日常生活の気づきのなかから生まれることも少なくありません。たとえば、流れ星は都会だとなかなか見えるものではありませんが、自然豊かな地方では、毎日のように信じられない数の流れ星を肉眼で見ることができます。つまり、流れ星は都会の空にないのではなく、常に夜空を流れているのに、私たちには見えていなかったということ。そこには、明るさの違いというシチュエーションが深く関係しています。対象そのものだけでなく、観測する環境に着目することで、これまで見えなかったものが浮かび上がってくるのです。
このような視点から、黒住研究員をはじめとする研究チームは、シチュエーションによって人の見た目の年齢印象が異なるということに着目。「日常のなかで老けて感じる瞬間もあれば、若々しく感じる瞬間もある。それは見る人によって、相手の顔の動きや部位をどのように見ているのか、その捉え方が異なるからではないか。私たちが日常で感じている印象とは何なのか。そこからこの研究は始まりました」。

二次元から三次元へ、変わる肌分析のいま

これまで行ってきたエイジングケアなどの研究の対象は、シミ、シワ、たるみといった老化の特徴です。ただ、それらは真顔を対象とした静止画であったり、肌カメラを密着させて測った部分的な肌表面の画像であったりという、顔のごく限られた一部分を対象とした研究でした。しかし、私たちは日常生活のなかでは人の顔をそのような方法で捉えてはいません。顔の様々な動き、角度、状態、環境などから受け取る“老けた印象”とは何か?という観点から研究が進められていきました。
「これまでの計測研究は、いわば顔に物差しを当てがい、一人ひとりの目鼻口の大きさ、シワの深さなどを測ることが主流でした。しかし、テクノロジーの発達によって二次元計測から三次元計測に変わり、その膨大なデータをコンピュータで処理できるようになったことで、立体的な顔を三次元のままの姿で解析できるようになりました。私たちは膨大なデータを主成分分析という数理学的な手法で分析しました。主成分分析では人の顔を立体的に観測した何百名もの顔データから割り出される『顔の形の平均値』を基準にして、一人ひとりがその平均からどれだけバラついているかに焦点を当てることができます。つまり、顔全体のなかで主成分という『その人のもっとも個性的な特徴』を炙り出して分析するということです」
研究チームが取得している顔の立体データは、空間の中でXYZ軸(それぞれ、縦・横・高さに相当)に対し、数万点ものデータから成っています。そのデータの一つひとつを比較することは難しいですが、主成分分析という方法によってデータ全体の中から一番着目すべき点をピックアップできる、というわけです。
立体データを元に再構築された顔の造形
「たとえば、ある集団のなかで個人差をもっとも表す特徴が顔の大きさだったとします。まず顔の大きさという軸がつくられます。同じように、次に個人差を表す特徴が頬のふくらみだとすると、頬のふくらみの軸が次につくられるという具合になります。私たちが顔の特徴一つひとつに物差しを当てなくても、データから一番着目すべきポイントが示されていく。言い換えれば、個人の顔の特徴というのはあらかじめ決まっているわけではなく、集団のなかで比較することではじめて『主成分として』その人の個性が浮かび上がってくるのです。分析する集団を変えるなどデータを変えれば、おのずと見えてくる特徴も変わってきます。研究では、20~40代のグループと40~60代のグループとで顔の個人差や老化の進み方が異なることがわかりました」

角度によって変わる“若さ”の印象

2015年、研究チームは140名の参加者に、正面だけでない、様々な角度から撮影した280名分の顔データから二人ずつ見せ、「どちらの人が年上に見えるか」を選ばせる年齢印象の評価を行いました。参加者は、画面上に1つずつ続けて表示された顔データを見て、前と後の顔のうち、どちらが年上に見えるのかを選択します。280名の顔データを使うため、合計140回比べることになります。その結果、「正面から見るよりも若く見える顔の向きがあることがわかった」と黒住研究員は話します。
「私たちが日々捉えている顔は、様々な角度から見られています。その観点から20代~60代の女性の顔を対象に老化印象を調べると、正面に比べて横向きの顔の方が若々しく見えることがわかりました。逆にいえば、正面の顔がもっとも老けて見える角度だったのです。若く見えたのは下方向、真横、斜め上からの角度。下方向からの角度で特に若いと回答された人は、まぶたのたるみが目立つ方が多かったため、下方向からの角度によって目が大きく開いて見えることが影響したと思われます。また、真横からの角度は特にエイジングサインが現れる頬が見えないことが、斜め上からの角度は顎のラインがシャープに見えることがそれぞれ影響しているのでしょう。女性がそういった角度から自撮りをしているのは、それを経験的にわかっているからなのかもしれません」
見る角度によって年齢印象は変わる。正面がもっとも“老けて見える”結果に
また、主成分分析で明らかにした個人の顔の特徴をもとにもう少し踏み込んで解析していくと、こめかみや目の周囲など、顔の上部の肉付きが少ない人・痩せている人は、その辺りの肌表面の凹凸が目立って見える角度があることもわかったそうです。下方向から顔を見られると、ゴルゴライン(解剖学的にはミッドチークライン)という部分の凹凸が陰影として際立って見え、老けて感じられがちなのだとか。
「人は見た目の年齢を判断する際、どこに視線を向けているのかわかりますか? その答えは頬です。年齢印象の試験のなかで「どちらの人が年上に感じますか?」と聞くと、多くの人が頬を見ていることがわかりました。対面した人を識別する際に、私たちは目鼻口を見ており、視線の約9割が集中しているとも言われています。ところが年齢に関する質問をすると、頬も見るようになる。目鼻口の位置関係は歳をとっても変わりにくいので、個人を見分けるのに使えます。しかし、加齢で皮膚の状態は変わります。つまり、人が年齢を判断するときに意識せずとも頬に目を向けるのは、皮膚こそが年齢の情報源になることを潜在的に知っているのです」。

顔の分析から自分を正しく知ろう

今回のように個人の顔の特徴を客観的に捉えることは、私たちが鏡のなかで認識している自分の顔とは違う特徴を炙り出します。人は顔の形状を劇的に変えることはできませんが、人からどう見えるのかということがわかれば、化粧で肌悩みをカバーできますし、良い印象を与えることだってできます。また、美容ケアとして今後注意しなければいけないポイントに気づくきっかけにもなりますし、自分の個性的な部位をチャームポイントとしてポジティブに捉えられることにも繋がります。
「いまはSNSによる他者とのコミュニケーション場面や街なかで触れる広告など、文字や静止画だけでなく動画を目にすることが多くあります。スマートフォンやパソコン、街頭のモニターを通じて、他者や自分の顔と向き合う機会が増えています。その意味では、人の顔に触れる環境は一層変わってきたと思います」
様々な人の生活環境に着目し、さらに研究を進めると、顔が見える静止画としての角度だけでなく、「顔が動いたときに生じる肌の遅れがノイズとなること」も老けて見える原因のひとつであることがわかりました。その知見を活用し、肌に追従するようなアプローチで老けを感じにくくできる「B.Aブランド」のベースメーク技術に利用できました。また、肌の動き方から肌の内部の状態を推定することを可能としたことで、その人だけのスキンケアアイテムを提案するポーラの製品「APEX」の分析に役立てられたりしています。今後はさらに、一人ひとりを輝かせるプロダクトや顔の特徴をより際立たせるメークなどが生まれるのではないかと黒住研究員は考えています。
「昔は目を大きく見せる、今はナチュラル志向というように、時代によって女性の美のトレンドは変わってきていますが、自分のことを正しく知りたいという願いはいつの時代にも共通しているのではないでしょうか。何よりも大切なのはその人の個性。この研究が自分らしい美しさを知るきっかけに繋がると幸いです」
出典
「顔の動きや観察角度が年齢印象に及ぼす影響」(第77回SCCJ研究討論会、2015年)
Illustrations by SHINCHI Kenro
Text by KATO Shota(OVER THE MOUNTAIN)
Edit by NARAHARA Hayato
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