環境アクティビストの小野りりあんさんと考える、きちんと知り、選ぶことで始まるサステナブルな暮らし

「サステナブル」「エシカル」という言葉が日本にも徐々に浸透しています。選択肢が多いのはいいことですが、グリーンウォッシュ(環境配慮をしているように装い、ごまかすこと)が世界で問題に挙がっていることも事実。透明性を示すべく、生産背景について情報発信する企業も増えるなか、生活者はどのようなことに配慮して、日々使うものを選ぶべきなのでしょうか。環境アクティビストとして活動するモデルの小野りりあんさんに伺います。
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いま行動することが、明日の暮らしをつくる

いまの気候変動対策では、2100年には地球の気温が平均3~4℃上がり、人が住める場所はほとんどなくなると言われています。この事態を食い止めるには、CO2を毎年7.6%ずつ減らし続ける必要があると国連で報告されるほど。世界中の人が、いまの日本人の生活をした場合、地球は2.8個必要だとも。
「でも、普段生活しているなかでそういう情報を聞いても、自分の日々の選択が、世界や未来とつながっているのを実感しづらい人も多いのではないかと思います。私も何かやらなければと思ってはいたものの、なかなかアクションできない時間もありました。そんなときに背中を押してくれたのは、『未来のための世界気候ストライキ(※)』を始めたグレタ・トゥーンベリの存在や、2019年に起こったアマゾンの森林火災。複数の出来事が重なり、今やるしかないという思いに行き着きました」と小野りりあんさんは語ります。
※…スウェーデン・ストックホルムに住む16歳(当時)のグレタ・トゥーンベリが始めた気候変動に対する政府の無策に抗議するために始めた学校ストライキ。125カ国で100万人以上の若者が参加し、SNSによって世界へ拡散された。
オンラインでインタビューに答えてくださった小野りりあんさん。
小野さんが理想だと言う“将来のお婆ちゃん像”は、自然の中に暮らしながら、老若男女さまざまな人が家に集まり、互いをサポートし合う環境で過ごす姿。しかし、地球の環境がいまのまま進んでしまえば叶えることはできません。環境問題解決にはタイムリミットがあり、熱波や洪水、干ばつ、森林火災、水資源の枯渇など、さまざまな災害が頻発するようになるまで、あと7年と100日ほど(2020年11月時点)というデータもあります(※)。
※…環境問題を解決するまでのデッドラインを示したNYのアート作品「Climate Clock」より。
「誰もが幸せになりたいですよね。私は自然や動物や周りにいる人たちが大好きで、なくなってしまうのは本当にいやです。なくさないために、いま頑張るしかない。そう思うことができたとき、ぜひ行動に移してほしいと思います」
自分も何かアクションがしたい。そう思ったときにできることの一つは、日常での自分の選択について、いま一度見つめ直すこと。「買い物は投票」と言われるように、生活の中で何を選び、購入するかも環境問題に結びつく大切なアクションです。「サステナブル」、「エシカル」という視点で商品を展開する企業も増えていますが、どのような視点を持つと良いのでしょう。
「そもそも私は日頃からあまりものを買わないんですが、これいいかも、と思ったら、もう少し覗き見ることが大切だと思います。その商品がどのように生産され、手元に届けられるのか。素材には何が使われているのか、長く使うことはできるのか。他の商品と比べたり、ウェブサイトを調べてみる。ものを買うとき、それくらいの積極性があってもいいのかなと思います。もちろん手に取る商品全てについて調べるのは大変かもしれませんが、少しずつそのきっかけを増やしていけるといいですね」

小野さんおすすめ、サステナブル商品5選

商品の背景まで知ることをふまえ、小野さんがこれまでに出会ったおすすめの商品を紹介していただきました。
「東京に住んでいると世界中からものが集まるので、どうしてもあちこちに頼ってしまいがち。エシカルやサステナブルの文脈で語られることは少ないですが、“東京産”という選択肢もあります。自分が暮らす地域で作られたものを購入することで、輸送の際に排出されるCO2を極力減らすことができます。
今回紹介する商品は、どれも東京産のもの。地域で作られたものをその地域で選ぶ、という選択も視野に入れてみてください」
(左から)
1.大島純粋三原椿油/有限会社高田製油所
「やぶ椿」の実から抽出される純度100%の天然な椿油。 肌や髪だけでなく、料理にも使うことができます。オイルは海外製のものも多いなか、国産であるうえに東京都内で生産されていることもポイント。プラスチックフリーでもあります。また、椿油は平安時代から女性の髪を守る油として使われており、伝統の継承にも寄与できます。

2.ランドリー&キッチンソープ/ラレシーブオーバンブー合同会社
ランドリー&キッチンソープは、森林破壊の原因となっている日本の放置竹林の竹から作られた環境に負荷をかけない天然由来の洗剤。製造工程から洗濯排水に至るまで自然を汚さず、合成化学物質フリーのため、敏感肌の方でも肌への負担が気になりません。また、ウールやシルクなどの天然素材を洗えるほか、食器洗いにも使うことができます。国産であること、熱帯林破壊をもたらす主因として指摘されるパーム油を使っていないこともポイントです。
※パーム油は「植物油脂」と表記される場合も多いので、確認するときは注意が必要です。

3.WARA STRAW/檜原村新農業組合
脱穀した麦わらから作られたストローも国内産。容器は瓶のため、プラスチックフリー。洗ってしっかり乾燥させれば何度も使うことができ、使えなくなってしまったあとはゴミに出さず、庭や畑に撒くと土に返ります。最初はわらの風味を感じるものの、紙ストローと違い、時間が経ってもストローによって飲み物の味が落ちることはありません。
(左から)
4.TOKYO CACAO/平塚製菓株式会社
小野さんが友人からもらって初めて知ったというTOKYO CACAO。その名の通り東京で収穫したカカオの実で作ったチョコレートです。赤道をはさんで北緯20度、南緯20度の地域でしか育たないと言われるカカオ。国内栽培を目指し、水やりや水はけ、日照条件、温度管理など試行錯誤を重ねて栽培が実現しました。贈り物にもぴったりで、「選択の仕方」を伝えるきっかけにもなります。

5.東京あまざけ/東京港醸造
都心で醸す唯一の酒蔵として、少量ながら新鮮で高品質な製品を提供している東京港醸造。「飲む点滴」と呼ばれるほど栄養素が高いうえに、「東京あまざけ」の名の通り、お米や麹、水など原材料のすべてを東京産にこだわって作られています。

仲間とシェアすることで広がるサステナブルの輪

小野さんは、こうした商品の情報を所属するNGOやコミュニティでキャッチしているといいます。おすすめの商品をシェアしてくれる人、科学的な根拠に基づいた情報を届けてくれる人など、一人では時間がかかってしまったり難しく感じることも、それぞれの得意分野を持ち寄れば効率的にたくさんの情報に触れることができます。
「私自身もこの夏に『Green TEA(※)』というコミュニティを作りました。普段はInstagramで環境問題を中心に発信していますが、だんだん見てくれる人が多くなり、みんなと会う場所を作りたいと思ったことがきっかけです。Slackを使って情報共有したり、Zoomで話す機会をつくることも。
環境のことに関心があるのに、周りには仲間がいないと感じて孤立してしまう人も多いので、自分に合うコミュニティを見つけて、ぜひ参加してみてほしいです。同じ興味を持っている人たちとつながり、思いや情報をシェアすることで、自分だけでは気づけなかったことも発見できたりしますよ」
※…Slackに登録すると、情報収集のほか、グループチャット、プロジェクトのアイデア提案、環境団体や専門家とのコミュニケーションが取れる。詳しくはこちらから。
まず知ること。そして日々の生活の中で丁寧に選び、自分の経験や思いを人とシェアして学び合うこと。「自分一人の行動だけじゃどうしようもない」と思うこともあるかもしれません。それでも、その一歩を踏み出すことが、誰かや世界を変えるきっかけになります。まずは小さくても、できることから始めてみませんか?
小野りりあん(おの・りりあん)
Profile/モデル・環境アクティビスト
1989年青森県生まれ。3歳から北海道札幌市で育つ。モデル業の一方で、環境アクティビストとして活動し、仲間とともに環境問題に関する情報発信を行うウェブメディア「SPIRAL CLUB」を立ち上げた。アクティビストハウス「the roots」を2020年5月設立。誰もが市民運動に気軽に参加できるオンラインプラットフォーム を「Green TEA」設立。
Instagram:
@_lillianono_
@activistshouse
@green.tea.official
Photographs by Kelly Liu
Text & Edit by Natsuki Tokuyama
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