フラワーアーティストとして、またオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS(ジャルダン・デ・フルール)」も運営する東信(あずま・まこと)さん。前編では、ご自身の活動を通して伝えていきたいことを話していただきました。後編では、東さんが手掛けたB.A第6世代のアートワークが生まれた背景や、そこに込めたメッセージ、そしてアートの持つ可能性について伺います。
生命の美しさをどう表現できるか
今回はテーマをもとに、生命の根源や「人はそもそもなぜ花が好きなのか」、「美とは何か」といったことをB.Aチームと話し合い、最終的に「人間とは?」というところにたどり着きました。その結果、「内に秘めた生命美に気付く」というようなアイデアが生まれました。「美の内面に触れたい」と思い、生命のベースとなっている“葉脈を流れる水の動き”を表現できないかと考えて。そうしたらもう、レントゲンを使った表現しかないと思ったんです。
撮影は防護服を着て専用の部屋で行うため時間もコストもかかるし、一回でうまく撮影できるとは限らない。それでもやりたいと思ったのは、B.Aの根底に通ずるビジュアルになると思ったからです。
よく見ると、水を吸い上げる過程や細胞の配置、生命の蠢(うごめ)きを感じることができ、目を凝らしてミクロに見ていくと、宇宙のようにマクロな世界を見ているような感覚にもなる。B.Aの背景にあるサイエンスティックな面もビジュアルに反映させました。
クリエイティビティに必要な互いのリスペクト
-ポーラとはB.Aで長年ご一緒していますが、仕事の依頼はどういった観点で受けていますか?
まずその仕事が面白そうであること。そして花へのリスペクトが感じられるかどうかは大きな判断基準になっています。間に合わせ程度に花を使うような依頼であれば、申し訳ないですがお受けしていません。
偉そうに聞こえるかもしれませんが、根底にある考え方は消費者に伝わってしまいますし、小手先だけの花を生けると、生命を無駄にしてしまうことになります。お金を儲けるためだけにやっているわけではないので、花を飾ったり、贈ったりする意味をきちんと考え、かつ環境を大切にする取り組みを積極的に行っている企業とご一緒したいと思っています。
-これまでのアートワークで印象に残っているものはありますか?
ドイツの家電メーカーとのプロジェクトは大規模な撮影でしたが、現場にはペットボトルが一切なく、ケータリングなどのフードロスも撮影で使ったお花も、捨てずにみんなで分けて持って帰ったんです。クリエイティブチームだけでなく、スタジオに出入りしている業者の方も「持って帰りたい」と言ってくれたり。一流はここまでこだわるんだなあと、世界的な企業の現場を見て恥ずかしくなったことを覚えています。
そうした企業とは、お互いにリスペクトし合えるし、良い関係づくりができると、また一緒に仕事をしたいと思うから長い付き合いになる。お互いを信頼し合うことで、仕事もサステナブルになっていきます。
-根底にある姿勢に共鳴し、信頼しあい、刺激しあう関係だからこそ、良いクリエイティブが生まれる可能性も大きくなりますよね。
ポーラのB.Aチームもその一つだと思っています。会長の鈴木郷史さんから言われて印象に残っているのは、「これからの広告は商品の説明じゃない」という言葉です。広告理論からは離れてしまうかもしれませんが、広告はアートであり、見ている向こう側の人に「これは何だろう?」と考えさせるものだと。
B.A第5世代のアートワークでは黒い花の根を見せたんですが、僕自身も斬新だと思いました。日本の化粧品広告は白バックでナチュラルな雰囲気が王道ですが、これは真逆ですよね。でも、これもB.Aブランドの考え方に基づいて突き詰めた結果のビジュアル。企業やブランドの基盤となるアイデンティティがしっかりしているかどうかは、一緒に仕事をするうえで重要だと感じます。
人が花を求める本当の理由
-企業のみならず、「JARDINS des FLEURS」のお客さまらのオーダーやコミュニケーションのなかからも、影響や刺激を受けることもありますか?
花に関わっていると、必ず誰かの人生が反映されるんです。亡くなった方に贈る花を束ねるときは「死」と向きあい、翌日はプロポーズのためのハッピーな花を束ねていたりする。日々、あらゆる場面で刺激を受けていますね。
そんな仕事だからこそ、どんなときも同じように花を束ねられるようメンタルを整えておきます。これはスタッフにも日頃から伝えていること。二日酔いでも、前日に恋人と別れて落ち込んでいても、お客さんの気持ちに応えないといけない、歯を食いしばって頑張りなさい、と。僕らの花屋はそういった姿勢でいるようにしています。
-誰かの人生に寄り添うのは並大抵のことではないですね。
人生の節目に依頼していただくことも多いですが、実はコロナ以降お客さんが増えていて。なぜ花が人に求められるのか調べてみたんですが、はっきりした答えはないものの、人間の本能的な部分に関わっているんじゃないかと考えています。
人類は狩猟する前、主に木の実を食べて生活をしていました。木の実は花が咲いたあとになるので、「花の近くにいれば実がなって食べられる」と知恵をつけた種族が生き残ったのではないかと思うんです。だから、花を求めるのは理屈ではなく、DNAに刻み込まれている。人は生きるために、無意識に花が近くにあってほしいと思っているのではないでしょうか。
だからなおのこと、花は「生命の縮図」だと思うんです。昔の文献も読んでみましたが、一番古くて1200万年前に、イスラエルでお墓にお花を飾った記録があります。その頃から人が死んだらまず花を手向けていたんですね。そんな大切なものを扱うことを生業にできているのは、本当に幸せです。
アートが私たちに与えてくれるもの
-花屋や広告など、様々な場面で世の中にアートを提示されていますが、あらためてアートが社会にもたらしてくれるものとは何だと思いますか?
心に訴えかける力じゃないでしょうか。ピカソの『ゲルニカ』を見た人が戦争や政治について考えるようになることもあれば、たった一輪の花でも、じっと観察してみたら自分たちが生きていくヒントがあるかもしれない。僕の作品も、少なからず何かに気づいたり、考えたりするきっかけになればいいなと思っています。
-なぜ、私たち人間は他の動物にはない、「アートを見て考えを巡らせること」を求めるのだと思いますか?
人間ってどうしようもない生き物で、だから埋め合わせるのにアートが必要なのかもしれませんね。人間が環境を大きく変化させているからこそ、余計に思考する義務がある。そのためにも、アートはなくてはならないものなのではないでしょうか。
東信さんがアートワークを手がけた「新B.A」ブランド体感スペース「Find Your POSSIBILITY」がPOLA GINZAにて期間限定で設置されています。まだ見ぬ、眠っている可能性を目覚めさせ、年齢に捉われず自らがつくりだすポジティブな力で進化していけるというB.Aの新たなメッセージをご体感いただける企画です。
「新B.A」ブランド体感スペース「Find Your POSSIBILITY」がPOLA GINZAに登場
https://miraibi.jp/articles/0245
Find Your POSSIBILITY
日時:2020年9月4日(金)~12月28日(月)11:00~20:00
会場:ポーラ ギンザ(東京都中央区銀座1-7-7) 入場無料
詳細情報:
https://www.pola.co.jp/store/polaginza/news/index.html
Text by Yukari Yamada
Photographs by Kelly Liu
Edit by Natsuki Tokuyama