Topics  

オリジナル短編小説『朝』 第4話

花々が茎や葉、根で作られるように、私たちも一つひとつの記憶や経験、生き方でつくられる。独特の文体で知られる芥川賞作家・小山田浩子が書き下ろしたのは、花にまつわる記憶とともに新しい朝へと向かう、一人の女性の物語。出会うすべてのことを栄養にしながら、自分を信じて前へ。第4話は、一重咲きの白いバラ。
share
伯母と母は 2 人姉妹、伯母はふっくら、母はごつっとしている。伯母はいつも口紅を塗り、普段お化粧しない母はするとなったら熾烈なほど濃い眉毛を逆立てて梳かす。要はあまり似ていないのだが、それでも、やっぱり、どこか同じだ。私は伯母の娘に間違えられたことがある。庭のバラの世話をする伯母を見ながら土をこねて遊んでいると通りすがりの人に、あれ、そちら……小さいお嬢さん? 伯母は背筋を伸ばし日よけ帽子を軽くめくってにっこり笑い、いいえこの子は私の妹の子供で、遊びに来てくれているんです。ああそうですか失礼しました、そういえば、お聞きになりました? 駅前の。2 人は私にわからない立ち話を始める。冬に剪定されたバラたちはついこの前まで葉っぱ 1 枚見えないただの枝のかたまりで、生きてるのか枯れてるのかもわからなくて、伯母ちゃんは間違って切りすぎたんじゃないのかな、でも気づけば芽が出て葉も出てつぼみも間近、私は土をこね伯母の顔を作った。
全然似ていないけれどでもどこか伯母っぽい土の伯母はぷつぷつ泡がはじけるような声で、もうすぐ咲くからね、これはいい匂いのバラ、こっちのにはほんわりした花がつくはず。私は土で母も作る。土の母も全然似ていないけれどやっぱり母で、私はもっとはっきりしたバラが好きとぷつぷつ言う。姉妹だけど、違うね。違うわね。誰が誰かと似ているというのはどういうことだろう。誰かが誰かであって誰かではないというのはいつ決まるのだろう。生まれつき? 生まれたあと? どんなバラが好き? 土の 2 人に訊かれ私は川土手や雑木林に春になるとたくさん咲く、小さい、白い、あれもバラでしょ? 土の 2 人はいい趣味ねと頷きあう。ノイバラね。香りもいいし。一重でさっぱりしてかわいい。刈っても刈っても生える。細かいトゲが痛いんだけど妙にいじらしい。いい趣味ね、見上げると伯母が微笑んで、ここの 1 本はそんな感じよ、白くて、もうちょっとひら っとしてるけど、やっぱりかわいいの。2 人とも、私のことをとても素晴らしい子供だと思っているという点では多分完全に一致している。
Novelist 小山田浩子/Hiroko Oyamada
1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞を受賞し小説家デビュー。2014年「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。2018年には15作品を収録した、短編集「庭」を刊行。独特の文体で紡ぎ出される作品は海外でも高い評価を受け、さまざまな国で翻訳・出版されている。
Photographer:Jun Imajo
Flower:Michi Hayashi
share